待ち合わせ場所にきた相沢は執筆に追われ、「寝不足だよー」と言いつつも明るくきびきびと歩く。このひとはいつも元気だな・・・・・・。
控え室にて5分程度の打ち合わせを終えると会場にすぐさま移動。報道陣が見つめる先の壇上にキャストの方々と、その脇に企画・プロデュースの石原さん、高橋プロデューサー、相沢が座った。
主演のミムラさんをはじめ、原田泰造さん、瑛太さん、須藤理彩さん、山本太郎さん、平岡裕太さん、黒木メイサさん、小日向文世さん、浅野ゆう子さんが並ぶ。キャストの方々の衣装は、定時制高校が舞台のドラマだけに、卒業時の集合写真をイメージしてとのこと。ミムラさんの胸に飾られた真っ白なコサージュが光っていた。
「めだか」は、ミムラさん演じる目黒たか子のニックネーム。元々は、「めだかの学校」から思いついたタイトルだそうだが、それなら主人公のニックネームにするのはどう?という話になって決まった、と小耳に挟む。
物語は、リストラをきっかけに定時制高校の教師となる「めだか」を取り巻く生徒や同僚教師との間で繰り広げられると言うことだが、いわゆる熱血ヒーロー学園ドラマではないとのこと。どんな話なんだろう?と思って聞いてみると・・・・・・。
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「むしろ、職業よりもその人の生き方を主軸においたドラマを作りたいなあと相談しまして。『自分は選ばれた優れた人間とまったく違う世界に住む、何でもない人間なんだ』と思っている人たちが殆どだと思うのですが、この主人公も周りの人たちもそうです。そういう人たちが自分で限界を決めるのをやめて何かにチャレンジしていく、いわば自分探しのドラマというふうに位置付けています」
と語ったのは、企画・プロデュースの石原さん。
また、高橋プロデューサーは、
「学校内ホームドラマが、おもしろおかしく出来ればと思います。スケジュールの都合で泉谷しげるさんが出席できなかったんですけど、言葉をもらってきました。『歳を取っても学ぶことの大切さと友情を大事にしていきたい』ということでした」
そして相沢の番。
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「『色々な人たちが集まる場所』ということで学園ドラマと言うよりはホームドラマに近い感じで書かせて頂いてます。めだかは、自分は何の取り柄もない人間だと思い込んでいる子で、何か始めてもすぐに諦めてしまったり、始める前に『どうせ無理だから』と言って投げ出してしまったりする女の子です。そこまで極端じゃないにしても、そういう部分ってきっと誰の中にでもあるんじゃないかな?と思って。私自身もそうなんですが、やっぱり傷つきたくないし、『負けが決まっている勝負はしたくない』という思いが無意識に働いて、自分の中で『これは出来る、これは出来ない』という風に可能性に線を引きながら安全策を取ってしまう、みたいな情けない部分があると思うんですね。でもそれって実は凄くもったいないことで、めだかもどこかでそれを分かっていて。ただ、それを変える勇気がなくてフラストレーションがたまってきて。たまたまそれが定時制高校の教師になった時に、きっかけが重なって爆発するんですけど。生きている中でのターニングポイントが訪れるきっかけというのは、憤りだったり焦りとか苛立ちとかというマイナスな感情からくることが多いんじゃないかな、と思います。本当はいつも前向きでいられたら最高なんですけど。私は割と今までも前向きな女の子を書くことが多かったんですけど、今回は、実はそういうマイナスな感情っていうのも大切なんじゃないかな、という風に思い、そういうのをいい形で表現できたらと思っています。何か諦めてしまっている人とか、実はそういう自分は嫌なんだよなぁと思っている人が『ちょっと冒険してみるか!』と思えるようなドラマにしたいと思っています」 |
そうそう、そうなんだよね。特別な人は、何も特別に生まれてきたわけじゃないんだよなぁ・・・・・・と、勝手に自分自身を振り返りながら聞く。
定時制の三葉学園には、心に問題を抱えた生徒や教師がずらりと揃っている。つまり「学園ドラマ」と聞いて想像する、全員が熱く燃えている話ではないのだ。どちらかと言うと、かなり冷めている。本音を言えなかったり、挫折から立ち直れていなかったり、暗い過去があったり・・・・・・。いつも笑って楽しそうに生きている人にだって、そういう心は存在するのだ。そういうリアルなキャストの心の動きに、誰もが自分と重ね合わせていける、という所が見どころではないだろうか。 |
目黒たか子役のミムラさんも、めだかと私は凄く似ている、とコメント。
「目黒たか子は一言で言うと『花曇り』だなと思いました。花曇りと言うのは、まったく晴れてはいないんですけど暗くはなくて。すべてにおいて曖昧な感じなんです。めだかは、小さなに乗り越えられなかった山を抱えながら過ごしてきてしまったら、その山が気づかないうちに大きくなってしまっているんですね。そこからすべてにおいて諦めるようになってしまったんですけど。初めて脚本を読んだ時に涙が出てしまいました。私自身も、そういう山をある出来事で突き付けられて途方にくれたことがあったので、読んだ時に『あ、この話は私のことだ』と思いました」
しんみりと静まり返っている中、続いて紹介された学年主任役の原田泰造さんが例の歌を歌い出す(♪は〜ら〜だたいぞうです♪)。キャー!生歌を聴けたよ!! と、興奮と爆笑の渦が落ち着いた所で・・・・・・。
「撮影が終わった後に泉谷さんが『あのミムラってやつよォ、オレなめてたんだけどいい演技するなぁ。アイツに負けないように頑張ろうぜ』と言っていたのを聞いて、このドラマはいけるな、と思いました。僕、頑張ります!」
次に立ち上がったのは、めだかとは小学校からの同級生で、次第に恋心を抱いていくという桜木拓役の瑛太さん。
「僕も(役と同じで)自己表現が下手です。意外とテンションの高い笑わせ役が多くて等身大ではなかったんですけど、(今回は)心底にある気持ちを遠回しでも人に伝えてみるという役です。セリフもストレートな表現ではないんですけど、セリフの裏にある心を大事に演じています」
続いては、バツいち子持ちでキャバクラ嬢という役所の須藤理彩さん。
「キャバクラ嬢ということで、今回はスタイリストさんやメイクさんの力を借りて、まずは外見から演じたという感じです。まだまだ中身が伴わないので、男性キャストの方々に『キャバクラ嬢とはこういうもんだ!』というアドバイスをしっかり頂いて、役作りに励みたいと思います」
教師は熱いという根底を覆す、サラリーマン発想な教師役の山本太郎さんからは、
こんなコメント。
「子供の頃に僕も教師になりたいと思ったんですけど、こんなんじゃあなれないですよねぇ。それがドラマのいい所です(爆笑)。このドラマでの目標は、セリフを噛まないようにすることです!」
続いて、不登校が原因で定時制に転学するというおぼっちゃま役の平岡裕太さん。
映画「スイングガールズ」で注目を集めている、と紹介された彼はハキハキした口調で「はじめまして!」と明るく話し出した。
「僕自身、あまり殻に閉じこもってしまったことがないのですが、昔は進路について悩んでいたので、この役と同じ部分を出していけたらなと思っています」
次に、嘘つきで周りを振り回してばっかりいるという困り者を演じている、黒木メイサさん。舞台で主役を演じるも、ドラマ初出演ということで大きな目からは緊張感が伝わった。
「初めてのドラマで凄く緊張していますが、みなさんの足を引っ張らないように演じられたらいいなと思います。がんばります」
ベテラン俳優の小日向文世さんは、立ち上がるなり「僕もスイングガールズにちょっと出てます!」と笑って平岡さんに対抗しつつ。
「僕はつらいことからすぐ逃げるタチで、高校の時も勉強が全然できなくて殆ど2でした(笑)。この間も試験のシーンで問題集見てたらホント気持ち悪くなりました・・・・・・。この役は小さな保険会社に勤めながら定時制高校で勉強しながら頑張っているんですよ。ホント僕、この役が愛おしくなるぐらい好きなんです!」
そして、浅野ゆう子さん。教師は生徒の心に立ち入らないという現実主義な信念を持った役を演じている。
「こんにちは、浅野でございます(穏やか〜な口調で)。教師役は思えば14年前の『学校へ行こう!』でやらせて頂きました。その時も英語の教師で今回も英語です。その時の教師は熱血でしたけど、14年経って現実を目の当たりにした時、こんな風になってしまったんだろう、ということを思い描きながら演じさせて頂いております」
大きな拍手の後、司会進行のアナウンサーから「めだかの見所」について質問。
「めだかが自分の部屋にいる時に羽織っているガウンです。だらしなーい感じなんですけど、衣装合わせの時に『あっ、これがめだかだな!』とピンときたので、注目してほしいです」(ミムラさん)
「本を読んでてもすっごくおもしろくて、演じているみなさんを見ていても『こんな風に演じるんだ』と思ったりもするんですけど、やっぱり一番見てほしいのは・・・・・・僕ですね。なかなかいいんですよ、僕。チェックしてて惚れ惚れするなぁーと自分でも思ったんですよねぇ。そんなところで」(原田泰造さん)
「めだかと一緒に成長していく所だと思うんですけど。僕とめだかと○○さんが三角関係になる所を見てほしいです」(瑛太さん)と、まだ決定していないストーリーを話してしまい、すかさず原田さんが「それまだ決まってないんだよ(笑)」とフォロー。
「誰ひとりとしてやる気がない、という所が今までにない学校のドラマだと思うので、それが今後どうなっていくのかが私も楽しみです」(須藤理彩さん)
「元気がいいとか熱血だと思われがちですが、まったくやる気のない感じだっていう所がおもしろいと思っています」(山本太郎さん)
「僕はずっと喋んないんじゃないかっていうぐらい殻に閉じこもっているんですけど、この教室を通してどう変わっていくのかを見て頂けたらと思います」(平岡裕太さん)
「現場に毎回行っていると本当に学校に通っているような気持ちになります。とても楽しくやっているので、みなさんに見て頂けたらと思っています」(黒木メイサさん)
「夜間高校なので歳の差があり、その人たちがひとつになって勉強しているというのがおもしろいと思います」(小日向文世さん)
「生徒さんが色々な人生を歩いてきていて、それぞれの人生も描かれていて、出逢ったことで生まれる心の交流を見て頂きたいです」(浅野ゆう子さん)
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この後、全員揃っての写真撮影が始まったが、何とも豪華なこと!
「ビギナー」(2003 CX)以来初主演となるミムラさんも表情豊かな演技力で注目を浴びているし、周りを取り囲むキャストのみなさんも演じることで名を挙げてきた方ばかり。みなさんに脚本を「いい!」とおっしゃって頂いて、何もしていないクセして私まで嬉しくなる。
相沢脚本の素晴らしい所は、何と言っても人と人の心の交流や、自分対自分の戦いが絶妙なバランスで描かれていることだと思う。その人にとってはごくごく日常のことでも、誰にでもドラマやストーリーがあり、それを覗き見している、という感じがしてならない。また、相沢脚本には常に「悪役」が出てこない。ただ素直に感情を表現出来なかったり、ちょっと意地悪なことを言ったり、どこか屈折した面はあるにせよ、心の底からの悪というのがない。それは多分、心底から悪い人なんていないと信じていたいからなのではないかと思う。
今回はスケジュールが重なり、切羽詰まる中で執筆している相沢だが、この後の囲み取材でも心情をきめ細やかに話しており、このドラマに注いでいるエネルギーを感じ取った。徹夜明けにも関わらず、また帰宅したら執筆だ、と言っていたけれど、その表情はとても明るい。
私は以前の相沢作品で、あることに挑戦しよう、と気持ちを切り替えられたことがある。ぜひぜひ今回も見て、今の自分と向き合いたい。みなさんもぜひ、執筆中の相沢に応援メッセージを!
2004.9.29. SeNa |