EPISODE6 〜 映画『大停電の夜に』制作発表REPORT
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もう、すぐそこまでやって来ているクリスマスに、街も人も華やぐ12月21日。美しいイルミネーションで飾られた六本木ヒルズにて、映画「大停電の夜に」のプロジェクト発表記者会見が行われた。
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突然、会場が真っ暗に?
 クリスマスイヴのストーリーということもあり、会場内では耳慣れたクリスマスソングが鳴り響き、舞台前には大きなツリーが飾られている。
 すると突然、会場内が真っ暗に。「おお」というどよめきが起こった後、ブラインドがゆっくりと上がり、東京の夕景が現れた。薄ぼんやりとした空には既に無数のネオンが輝き、ただ一瞬の明かりを失っただけなのに、何故かその光たちに安堵する。
 本作は、監督・脚本である源孝志さんが演出されたドキュメンタリー「N.Y. 大停電の夜に」(2003年)がモチーフとなっている。この作品は、相沢がナレーションを務めたこともあり、見た人も多いのではないだろうか。
 真っ暗になってしまった東京という街の中で、14名の登場人物が感じ得たもの。それは一体何なのか、また、暗闇という撮影には最も不向きなテーマを掲げた本作を、どのように作り上げていくのか、クリエイターたちが語った。
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クリエーター達の想い
 まずは、各クリエイター陣の挨拶から。

「この作品は、自分のオリジナルとして新しい作品になればと思っています。そう言った意味では、特別な気持ちで大事に撮影していきたいと思っています」(源監督)

「源監督とは2001年のクリスマススペシャルドラマ『温かなお皿』で、一緒に書かせて頂きました。その時にユニット名みたいなものを考えようと、半分遊びも交えて『カリュアード』という名前をつけたんですけど、それからもうかなりの年月が経っていて。その後も一緒にやりたいね、とは言っていたんですけど、ずっとご一緒できていなくて。なので今回、このような形でカリュアードという名義で書かせて頂いて、凄く嬉しかったです。共同脚本というのはいい所もあり悪い所もあり、だと思うんですが、私と源監督はいろんな部分で共鳴する所が多いので、男性の視点と、私は女性の視点から考えて、意見を交わしながら脚本を書いていく作業がとても新鮮で。自分一人で書くのとは全然違った感覚が味わえるので、楽しく書かせて頂きました。それから、真っ暗な中で撮影されるというのがあまり想像がつかなくて、多分今までで出来上がりが一番想像できない作品だと思うので、完成が楽しみです」(相沢)

写真  続いて、フランスを活動拠点にし、「将校たちの部屋」でセザール賞・最優秀撮影賞を受賞した撮影監督、永田鉄男さん。これが初めての日本映画参加作品となる。
「正直な所、ちょっと自分でどう対応できるのか躊躇した所がありまして、なかなかハッキリした返答が出来ないこともあったんです。大停電という状況はとても不安でしたが、よし、やってみよう、という事で今回やらせて頂いております。大変ですが楽しくやっています」

 続いて、荒木プロデューサー。
「この企画に関しては、まずカリュアード探しという所から始めました。以前の『温かなお皿』を拝見した時、こういう方々に映画界に入って頂けたらな、と思いまして。ようやく今から一年前ぐらいに源監督に逢い、監督から頂いたアイディアの中のひとつに、この大停電をモチーフとしたものがありました。そこから、真っ暗な東京という映像をどなたにお願いしたらよいかと考えた時、横浜国際映画祭で観た『うつくしい人生』の映像が自然と浮かび上がり、何度も永田さんにお手紙を書き、パリにまで押し掛け、本当にあなたしかいない! という思いでお願いをしました。今日ここにはいらしていませんが、美術監督の都築さん、録音の深田さん、照明の和田さん、いずれも素晴らしいスタッフばかりです。これだけ私が願ってやまなかったスタッフの方達にご参加頂いて、このオリジナル作品をお届けすることができるのが、今の私にとってとても嬉しい思いであり、制作も大変ですが、完成を楽しみにがんばっています」
モチーフはドキュメンタリー作品『N.Y. 大停電の夜に』
 モチーフの『N.Y. 大停電の夜に』は、源監督が「その時あなたは何をしていましたか?」という質問を持って、その事件に遭遇した方々に会い、それぞれの視点からその日の出来事を描いたものだ。報道では知り得なかった彼らの過ごし方を、ユーモラスに描いている。この作品が本作のスタートラインとなったきっかけを、源監督に聞いた。
 「ドキュメンタリー作品の方は、この大停電があった一週間後ぐらいからスタートして、150名ぐらいの方々に会って撮影させて頂きました。荒木さんには本作以外にも3本程企画を出したのですが、よりによって一番大変なこの企画を気に入ってくださり(笑)、どうやって撮影しようか、予算は大丈夫なのかと色々不安な面はあったのですが、予算を集めて頂き……という感じですね」

 この作品でナレーションを担当した相沢は、ドキュメンタリー作品を観て、どう感じたのだろうか。
 「停電が起きた夜の事を皆さんが『あの事があってよかった』とか『あの夜があってわかり合えた事がある』とおっしゃっていて、その夜にちょっとしたプレゼントみたいなものを貰った、っていう心温まる作品に仕上がっていました。私が書くものはいつも、日常にごく当たり前にある事をテーマにしています。失ってみてわかる事とか、当たり前だと思っていた事が貴重な事だったと気づくとか、そういうテーマが好きなんです。ですから今回も、このドキュメンタリーの世界観をできるだけ崩さないようにと、気をつけて書きました」
もうふたつのファクター、「ノーラッド」と「ジャズ」
 映画「大停電の夜に」には、モチーフになった作品の他に、もう2つのファクターが存在する。
 その1つ目が、アメリカとカナダの航空宇宙防衛を担当する二カ国連合の軍事組織『ノーラッド』がサービスとして行っている、『サンタクロース追跡レーダー』(http://www.noradsanta.org/)だ。
 このサービスは、毎年クリスマス前夜からウェブサイトにて、世界中を駆け巡るサンタクロースの現在の居場所や、各地へのサンタ到着予定時間などが示されるという、何とも夢のあるもの。今年、50周年になるこのサービスを展開しているノーラッドの人々が、本作のシナリオに感銘し、シナリオ校正や画像提供をするなどの全面協力を申し出たと言う。
 この『サンタクロース追跡レーダー』のウェブサイトを、登場人物のひとりが開いた所から物語が始まるのだ。
 「東京が真っ暗になるという、ある種ファンタジックなシチュエーションのキッカケになる何かがないか、ということを監督にご相談した時にノーラッドのお話を頂きました。ただ実際に映画にするとなると、ウェブサイトだけではなく画像などの色々なものが必要になり、そこでノーラッドにコンタクトを取りました。三度目のお手紙を書いた時に、ようやくいたずらではなく本当に日本でそういう映画が出来ようとしているんだ、という事を分かって頂いたんです。同じような夢を世界中の子供たちに伝えようとしてくれている、という事で共鳴し、彼らが全面協力を申し出てくれました」(荒木プロデューサー)
 ノーラッドの副局長・ダグラス・マーティスからは、今日の記者発表に向けてのコメントが届いていた。
 「今日のプロジェクト発表記者会見に際し、北米航空宇宙指令部ノーラッドの全スタッフを代表し、世界中の子供達の思いをはせるサンタの愛と夢を信じてやまない、この素晴らしい計画を立ち上げたアスミックエースの偉大なる紳士淑女諸君、並びに制作に携わるすべてのスタッフに対し、心からお祝いを申し上げます」

 さて、ファクターの2つ目は、音楽だ。ジャズをこよなく愛するという源監督が、ビル・エバンスの名曲「MY FOOLISH HEART」を使用することを決めた。
 「この曲は大好きで、いつか自分の作品に使いたいと思ってはいたのですが、凄く好きなので使うのをためらっていたんです。今まで使う機会も何度かあったのですが、今回の作品にしようという事で。まず、この曲が流れ始めて、ノーラッドの映像があって。この2つでだいたい書き始めて今の作品になっています。この曲を使うためにジャズバーを登場させたりしました」

写真 物語は、この2つのファクターから始まるのだが、その後の展開などはどうなっているのだろうか。
 「パニック映画ではないですね。どうしても最初の15分ぐらいはそんな感じになりますが。高齢の方から少年少女などのいろんなカップルが、ちょっと勇気がなかったり、変えられなかった自分だったりを、大停電をキッカケにして変わっていく、というものです。僕は元々『自分の力で何とかする』という人間が好きなので、登場人物も、ラッキーな事を期待しないで自分の力で努力する、という人ばかりです。特別な人間は一人もいません。みんな普通のそのへんにいる人なので、だからこそ凄くチャーミングに見えるように描きたいと思っています」(源監督)
 「もしこの停電が起きなかったら、暗くならなかったら、きっと言えなかっただろうという事とか、隣にいても話をしなかっただろう、通っていてもそこにあるという事に気づかなかっただろうとか、そういう要素が大切だなぁと思っています。大停電という事をモチーフにしたからと言って、凄く大きな大袈裟な事件として描くのではなく、そこで気がついた本当に小さな事を描く事で、再び明かりがついた時にもう一度大切にできる何かとか、発見した何かとか、一人一人の登場人物がちょっとだけ一歩足を踏み出すとか……。そういう部分を意識して、みんながその一晩を越えた事で何かを手にした、という事を描けたらなぁと思いました」(相沢)

 さて、そんな困難な状況を、一体どうやって映像として表現したのか、永田さんが語る。
 「今はどんな田舎に行っても、光のない所というのが存在しないというのがロケーションをしていて、よくわかりまして。外灯とかそういうものがあるので、真っ暗にはならないんですよね。なので、自分が思っていた映像というものは厳しいと考え直し、目を閉じてもう一度目を開けた時に見えるものって、イマジネーションの世界なんじゃないかな、と。いずれにしても真っ暗やみでは撮影できませんし(笑)、そういう事によって人間の表現に制約が出てしまうのも、あまりおもしろくないんじゃないかなぁと思いまして、もうちょっと自由な表現でできるといいな、と思っています。いわゆるキャンドルライトとか、そういうアイディアもあったのですが、もうちょっと違う感じでスタートしています」

 気になるキャストの方は、豊川悦司さん、田口トモロヲさん、原田知世さん、吉川晃司さん、寺島しのぶさん、井川遥さん、田畑智子さん、淡島千景さん、宇津井健さんなど、豪華な顔ぶれが揃っている。
 このキャスティングに対して監督は、「僕が欲しいと思った人すべてに揃っていただけました。贅沢なんですが……。それぞれのキャラクターとドラマが引き立っています」と、語った。
実際に見えなくても、想像を膨らませられる所にこだわりを
 ここまで聞いていても、一体どのような映像や物語が実際に観られるのか、全く想像がつかない。ただ何事が起こるのか期待に心が弾み、まだあと公開まで一年もある時間を首を長くしてワクワクと待つしかないのだ。
 最後に、質疑応答が始まった。

 Q「ニューヨークの2003年の大停電がモチーフと言う事ですが、その前の1960年代の大停電やハリウッドの停電なども念頭に置いて作品をつくられているのでしょうか」
 A「その2つは人種差別問題とか貧富の差とかが酷い時期でしたね。暴動や略奪も多発したらしいです。でも、2003年のニューヨークではそういうことはほとんど起こりませんでした。ちなみに盗難が3件あったそうですが、少年がスニーカーを盗んだりと、他愛のないものばかりで、みんなが鍵を閉めなければならない状態ではなかったということです。今回は舞台が東京と言う事で、日本人にしかない『相手の気持ちを思いやる』といったものをテイストとして加えたりしています」(源監督)

 Q「永田さんは日本映画初挑戦と言う事ですが、何か特別こだわった点はありますか?」
 A「僕から答えてもいいですか(笑)?これ程ローアングルが好きな人はいないですね。カメラが物凄く低いんです、全カット。なのでセットに天井を作っています。それと、とにかく永田さんは白いものを排除したいようで、衣装合わせの時も白いものは一切ダメでした。あとはスモークが好きですね。それから長くてもワンカットでいく、という所です」(源監督)
 A「こういう作品なので、実際に目で見えなくても、想像を膨らませて見られるような、そういう所ですね」(永田さん)

 Q「この映画の構成は? 一つ一つのドラマがバラバラになっているのでしょうか?」
 A「オムニバスという形ではなく、時間はそれぞれの場所に均一に流れていく感じです。それぞれの場所で起こることを見ているうちにあっという間に時間が経って、気がついたら電気が点いていたというような、そんなふうにしたいですね」
写真 来年、再びこの街がツリーやライトで彩られる頃、きっともっと鮮明な形でこの映画が私たちの目に映ることだろう。今はまだ撮影に入って間もないという事もあり、数々の謎が浮かび上がる所だが、この素晴らしいスタッフの面々を拝見していると、必ずや心がほんのり温まる素敵な映画になる、と確信せずにはいられない。
 今回のプロジェクト発表は普通の制作発表とは違い、映画を作る上で土台となるクリエイター4名によって成されていたが、作り手側の情熱や苦労が聞け、映画製作の素晴らしさを目の当たりにした。普段、映画を観るだけでは感じ取れないもの、鑑みる事が出来ない事を、今回の記事で感じ取って頂けたら嬉しい。
 また、いつもとは違うユニットでの活動となる相沢の脚本が、どんな贈り物をくれるのか楽しみだ。

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