EPISODE7 〜映画「大停電の夜に」完成披露試写会
  8月22日。夜になってもまだ蒸し暑く、少し歩くだけでもじんわり汗をかくような夏の終わり。11月から全国ロードショーが始まる「大停電の夜に」の完成披露試写会が都内の映画館で行われた。



 その数週間前、家に届いたのは観音開きをあしらった真四角の招待状。外側が真っ黒なのに対して、中を開くと東京のイルミネーションが色鮮やかに描かれている。「さすが凝った作りをしているなあ」と驚いたのだが、試写会当日に頂いたパンフレットも素晴らしかった(これは映画館で皆さんがご覧になる時に購入出来るもの)。それに折り込まれていたのは、「12月22日の夜に見える星空」の星図。これは「チーム・マイナス6%」が出している広告だ。
 チームマイナス6%とは、温室効果ガス排出量6%の削減を目標としたチームで、著名人や企業、団体などが参加している。映画「大停電の夜に」も、このチームと連携して冬のライトダウンを呼びかけているのだ。
 試写会の会場となった映画館では、街中の電気を消せばきっと見えるであろう星たちが映画館いっぱいに浮かぶ所から始まった。音楽とともに、「真っ暗の中で何を感じますか?」「今、逢いたい人は誰ですか?」というナレーションが重なる。




 明るくなると、サンタクロースの格好をした香椎由宇さんと本郷奏多さんが登場、映画の制作者たちを紹介した。壇上には、監督・脚本の源孝志さん、音楽の菊池成孔さん、そして相沢が登場し、一言ずつ挨拶。

 まずは、音楽の菊池成孔さんから。
 「映画音楽を作るのは初めてのことで、時間は長いし登場人物は多い、しかも主題歌は決まっている、という難しい状況でとても苦労しました。更には、映画の8割が停電という状態ですから、当然音楽も聴こえてこないですし……。でも、苦労したぶん、とてもよい音楽に仕上がったと思っています」

 次に相沢が挨拶する。

 「カリュアードとして活動し始めて今回で3作目になります。今までになく登場人物が多かったのですが、幼稚園児から70才までとたくさんの人物を描きながら、二人(源さんと)でやり取りするのがとても楽しかったです。大停電と言っても、街中が混乱していてハラハラドキドキするような映画ではなく、暗闇の中でひっそりとかわされる会話を中心に描いた、とても静かな映画です。観て頂いて、当たり前にそばにいる人に優しくしてみようかな、とか、言えなかったことを言ってみようかな、と思ってもらえたら嬉しいです。真夏にクリスマスの映画を観るなんて不思議だと思いますが、是非またクリスマスに大切な人を誘って来てください」

 続いて、監督・脚本の源孝志さん。
 「ちょうど撮影が終わって半年が経ちます。去年12月8日にクランクインをして、冬の間中、ほぼナイトロケをしていました。1月の終わりにクランクアップしましたから、それからもう半年経ったのか、という感じです。今、この映画の原作となる小説を書いているのですが、登場する12人の人物のチャーミングさが素晴らしいと思っています。映画には映画にしかない瞬間があるので、是非楽しんで観ていってください。また、映像も音楽も素晴らしいものに出来上がっています。相沢さんと組むのはこれで3度目ですが、僕はこれが一番好きです。とてもチャーミングで。2時間15分、あっという間という感じだと思いますので、是非楽しんでください」

 そして、映画が始まった。

 映画はNORADのサンタクロース追跡レーダーから始まる。また、それぞれの登場人物が紹介され、ややひゃっとする場面も。途中、大停電になり始める所もそうだが、鳥肌が立つポイントがいくつかある。大停電の撮影だからと言ったって街中の電気を消すわけにはいかないし、いったいこの映像はどうなっているのだろう、と不思議に思う反面、リアルなその場面にぞっとしてしまう。本当にこんなことが起きたら自分はどうしているだろう、という自分自身への疑問は、映画を観ている間中、考えさせられることだ。

 前回、記者会発表の時からずっと疑問であった「停電して真っ暗な闇を一体どうやって映像にしているのだろう?」ということだが、それはそれは終始素晴らしい光の加減で撮影されていた。どうしても人物の表情などのことを考えると、灯りがないということが嘘のように見えてしまうものだが、表情も分からないほど真っ暗であることがリアリティであり、この映画の一番素晴らしい所ではないかと思う。

 内容について詳しく触れられないのが残念でならないが、ちょっとだけ書くと、この物語には夫婦や恋人だった者同士、見ず知らずの者同士などの数組のカップルが登場する。なかでも宇津井健さんと淡島千景さんの夫婦の会話は素晴らしかった。かなり個人的な思いが入るが、あんな夫婦っていいな、と思わせるシーンだ。
 また、豊川悦司さん扮する木戸晋一の経営するバーは古くて汚くて、でもどこか愛着のある感じがして素敵だ。このバーのある路地は、以前相沢が日記の中でも写真を公開していたので、それを見ている人には「ああ! ここか!」という懐かしい感じさえする。

 雑誌「FRaU」で連載されている小説「大停電の前に」を読んでいる読者にとっては、田畑智子さん扮するのぞみのキャンドルショップが映像となっている所に感激するだろう。それは想像なんかを飛び越えて遥かに美しいので、小説を読んでから観に行くと更に楽しめると思う。
 後半は涙なくして観られない、というのは大袈裟かもしれないが、うるうると心温まるものがあった(隣で観ていた栗山さんはずっと鼻を啜っていた)。私は、観終わった後にすっきり、という感じではなく、色々なことを考えさせられた。いつもと違う夜が来たら、ということ、そうなった時に誰と一緒にいたいかということ、或いは電気の大切さについても。
 皆さんが映画「大停電の夜に」に出逢うまで、あと二ヶ月。ぜひ今年の締めくくりに、この温かい物語を観てほしい。


尚、それまでの間は、様々な形でこの映画に触れる機会が用意されている。

・アナザー小説「大停電の前に」(カリュアード著)
・原作小説「大停電の夜に」(源孝志著)
・コミック「大停電の夜に」(松苗あけみ著)
   以上はすべて講談社から11月に発売

・オフィシャル写真集「TOKYO BLACKOUT/大停電の夜に」(中野正貴撮影)発売時期未定

・フォトエッセイ集「李冬冬=阿部力 大停電の夜に東京で」(黒須みゆき撮影)角川書店から10月下旬に発売

・スペシャルDVD「大停電の夜に ナイト・オン・クリスマス」(日向朝子監督)角川エンタテインメントから11月11日に発売

・オリジナルサウンドトラック「大停電の夜に」イーストワークスエンタテインメントから11月に発売

                   2005/08/22,SeNa