「女と男の熱帯」は、故・野沢尚さんが遺した企画をもとに相沢が書き下ろした。
家族の復讐を企む男と、それを追う女。そのふたりを取り巻く闇社会を描いた作品は、社会派ドラマを次々と世に送り出すWOWOWでこそできる骨太のドラマに仕上がっている。
まずはこの作品について、主演の藤原紀香さん、渡部篤郎さん、監督の生野慈朗さんにうかがった。
生野:「今朝ようやく第一話ができあがり、無事みなさんにお見せすることができました。外は寒いのですが、画面のなかの熱帯の空気に触れていただけたらと思っております」
相沢:「今回、野沢さんの企画ということで、同じ脚本家としてとても光栄であるとともにプレッシャーを感じる部分もあり、緊張感を持って書かせていただきました。野沢さんの意向を、わたしの脚本をとおして伝えられていたらいいなと思っています」
藤原:「企画書をいただいたときに、じんわりと汗が出てくるような野沢さんの思いがほとばしるような原案で、それに相沢先生が息を吹き込んでくれて、本当にやりたいと思えた役でした。このキャストとスタッフでこのドラマを撮れていることがとてもしあわせです」
渡部:「いま……眠いです(笑)。今日も朝からロケで働いてきました(笑)。今日も本当に寒くて、若い俳優みたいな感じで、朝から晩まで一生懸命がんばっておりますので、たくさんの方にWOWOWに加入していただいて(笑)見ていただきたいと思います」
——生野監督に伺います。このドラマは、2004に他界された野沢尚さんの企画書が原案となっておりますが、最初に読まれたときにどうお感じになりましたか?
生野:「最初は野沢さんが書かれた企画だと知らずに読ませていただいたんです。どきどきして、すごくやりたいなと思いました。張り込みをするシーンがメインなんですが、張り込みっていうのは、いわゆるのぞきですよね。普通は女性をのぞくのが多いんですけど、逆なんですよね。女が男を張り込む。そしてそこから落ちていく男と女——落ちていくと言っていいのかな。ある種すごく美しく輝くときがあるんですね、映画でも「俺たちに明日はない」とかありましたけど。それがものすごく力強く描かれていて。野沢さんの力はすごいなあと思って、撮らせていただきたいなと思いました」
——相沢さんはさまざまな脚本を手がけておられますが、コマーシャルのないWOWOWで映像化することのおもしろみ、どんなふうに感じておられますか?
相沢:「コマーシャルがないことは自分にとってそんなに重要ではないんですが、民放ではどちらかと言うと明るく前向きな、コミカルな部分が強いものをずっと書いてきたので、WOWOWというとやっぱり社会派ドラマという印象があって、最初は大丈夫かな……と不安もありました。でも生野監督と話を進めていくうちに、自分なりにこの熱帯というものの表現の仕方、新しい方向性が見えて。淡々としながらも男と女が破滅に向かっていくんだけど、そこにはものすごく熱いものがある、という空気感を理屈じゃなく表現していこうよ、というところを一緒に考えながら書いていく作業はすごく楽しくて、自分のなかでは今までに書いたことのない作品になったんじゃないかなと。WOWOWドラマに初挑戦できてよかったと思っています」
——第一話をすでにご覧いただきましたが、この第一話のなかで思い入れのあるシーンなどはありますか?
相沢:「この一話で、ドラマの空気感を決める決定的なシーンというのが自分のなかであるんです。ひとつはふたりがまったく別の場所にいるんだけど、モニター越しに一緒にお弁当を食べているような、孤独なふたりがまるで向かいあって食事をしているかのように見えるシーン。もうひとつは、(張り込み部屋で)苑子が暑くて上着を脱ぎ、下着姿で進藤のことをずっと見ているシーンです。じっとりと汗ばんできて、そこに妙な高揚感がにじんでくる。そのふたつのシーンが、『あ、この世界見えた』と思ったきっかけだったので、どういうふうになっているかなと楽しみにしていて、本当に期待以上の仕上がりでとても感激しました」
——藤原さんはいろいろな要素を含む役だったと思うのですが、演じられていかがでしたか?
藤原:「ずっと男性を張り込んでいると、ともすれば四六時中一緒にいるような感覚になるんですよね。渡部さん演じる進藤が暮らしている姿をじっとひたすら見ることによって、もっともっと苑子の気持ちに没頭していけるような、不思議な感覚に陥りました。苑子はジャーナリストとしてのトラウマから抜け出せない状態にいましたが、進藤を追いかけながら、かつての元気だった7年前の自分を取り戻すべく奮闘する。そして女としてもなにかが動き出す、そこがすごくおもしろいと思いました。完璧に見えるキャリアウーマンの苑子の心のなかにある弱さや脆さ、その人間らしさを大切に演じています」
——ご自身と比較して共通する部分はありますか?
藤原:「ジャーナリストという役ははじめてだったんですけど、まったくかけ離れた世界じゃないなと感じました。わたしも開発途上国などの取材をしているときなど、問題意識を持ってこれを伝えなければいけない、自分ではこれがやるべきことなんだ、と自信を持ってやっているんですけど、苑子と同じように、虚構と現実が行き惑うなかでなにが善悪なのかわからなくなることもあるんですね。それで苑子はある失敗を犯してしまうんですけど、プロとして突き詰めた結果でもあり……。役作りをするうえで実際に40代の女性報道記者に会ってお話させていただいたんですが、やっぱりそういう世界のなかで、自分はなにを正義としてやっていくかということ、日々考えて日々すれすれの状態でやっているっていうことを聞いて、共感できる部分がありました。内面的には、わたしもしっかりきっちりした人に見られがちなんですけど、人間いろんなところがあって(笑)。そういう苑子にもとっても共感しています」
——WOWOWドラマWに多数ご出演いただいている渡部さんですが、WOWOWドラマに出演されるおもしろさはどんなところでしょうか?
渡部:「単純に、素晴らしい作品が多いと思います。でもね、やっぱり、いつも思うんですけど、加入してもらわないと(笑)進まないじゃないですか。今回は本当にそれを願いますね。だいたいみなさん入ってらっしゃいますか?(笑)一話目は無料放送みたいですが、二話とかもぜんぶ無料にしちゃってもいいんじゃないかな、みたいな(笑)」
——おふたりは初共演ですが、お互いの印象はいかがだったでしょうか?
藤原:「本当にお会いするのも初めてだったので、ドラマや映画のなかの渡部さんのイメージだったんです。もちろん現場でもすごく頼りになって支えていただいているんですが、すっごくおもしろい方なんですよ(笑)。楽しませていただいてます。それがすごく意外でした」
渡部:「すごく特別な存在の方という印象がありました。恐らくたくさんの経験をなさって、藤原さんの持っている悲しみとか優しさとか……。僕は撮影カメラよりもいい場所で、すごく近くで見られるんで、そういう藤原さんの光をたくさん感じることができて、とても光栄です」
——監督はおふたりをひさしぶりに演出されていますが、ひさしぶりのお仕事はいかがでしょうか?
生野:「渡部さんは現場ではうるさいんですよ、早くやろうよ早くやろうよって(笑)。でも一本目をご覧になっておわかりだと思うんですけど、あれだけ長い時間セリフがないんですよ。最後の一言だけなんです。なのにものすごい存在感があって。前にご一緒したときもすごいなと思ったんですけど、よりいっそう雰囲気が出てきて、余計な芝居を一切しないのにきっちり存在感を出せる俳優さんだなと。紀香さんは、以前はコメディタッチのドラマだったので、パターンで演じる感じだったのですが、今度の役は逆にかたちになっちゃいけない、ひとりの女性の人生を描かなきゃいけない役なんですね。でもあの頃と比べるとすごくたおやかになったというか、人生いろいろ経験なさってお芝居が柔らかくなって、素敵になったなと思いました」
——初共演で濃厚なラブシーンがありましたが、藤原さんはラブシーンいかがでしたか?
藤原:「台本を読んだときのことなんですけど。それはすごく衝撃的なはじまりなんだけど、苑子の気持ちとしてはスムーズだったので、フラットな状態で入れましたね。現場では渡部さんの息づかいだったり空気だったりを感じて、演じていけば大丈夫だろうなと思っていたら、本当にその通りで。朝から夜までかかったんですけど、いつの間にか時間がたっていたという感じでした。そのおかげで出来上がったものを見たとき……、本当に純粋に嬉しかったですね。ああ、こんなにきれいにこのシーンを描いてくれたんだ、って。とても誇れるラブシーンになりました」
渡部:「藤原さんがおっしゃった通りです。男ですからね、ラブシーンはあんまり映ってないんですよ、僕(笑)。オープニングの爆発のとこも僕いたんですよ。気づきました? ロスに2泊4日で行ったんですよ(笑)」
——最後に、視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
生野:「こういう言う方するとあれなんですけど、地上派ではちょっと見られない大人の、腰を据えたドラマになっていますので、たくさん加入していただいて(笑)見ていただけたらと思います」
相沢:「一話を見ただけだと謎だらけだったと思うんですが、今後いろんな事件が絡みあって、いろんなことを考えされられるドラマになっていると思います。もちろん主演のおふたりの愛がどうなっていくのか、というのがいちばんの見どころなんですが、それに絡んでくるさまざまな事件もいろんな角度から見られるドラマだと思いますので、ぜひ見ていただければと思います」
渡部:「人として、誠実にドラマをつくっています。とにかく見ていただきたいとしか考えていないので、ぜひ見てください」
藤原:「キャストの思い、スタッフの思い、苦労が集結しているドラマだと思っています。真冬に真夏のシーンの撮影をしているので、わたしたちも震えながらやっていますが、画面に落ち葉ひとつ落ちてはいけないので、スタッフが落ち葉一枚一枚を拾って、心をこめて丁寧につくっているので、時間をかけてやっています。それが画面から伝わっていくと思います。大人が楽しめるドラマなので、ぜひみなさん見てください」
これまでの相沢作品と比べると、かなり異色となるのが今作だ。物語を大きくひっぱる官能的なラブストーリーは、キラキラしたときめきのある30代の恋とはひと味違う大人の愛。その背景には、現代の世の中を彷彿とさせる社会問題がシリアスに描かれている。相沢の描く、今までにない風景やセリフの数々をぜひお楽しみに。
WOWOWドラマW「女と男の熱帯」
毎週日曜22:00〜23:00(全6話)
藤原紀香/渡部篤郎/永山絢斗/YOU/安田顕/刈谷友衣子/二階堂智/阿部進之介/市毛良枝/山本圭/吉田栄作
原案:野沢尚/脚本:相沢友子/演出:生野慈朗/演出:井坂聡/演出:村上牧人
Edit&Write/吉川愛歩
Web Design/服部祐民子