REPORT 10 |
2002.07.26.Fri |
うっとおし〜いと思っていた梅雨も明け、窓の外では蝉が鳴き始めた。 本格的な 夏の到来だ。そんな7月のゲストは、ニューアルバムをリリースし、8月3日には西武ドームライブを控えた渡辺美里さん。 |
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これまでのゲストとといえば、相沢とすでに一緒に仕事をしていたり、公私共に親交の深かった人たちばかり。しかし今回は、ゆっくりとお話をするのは初めてというだけあって、特別な空気に包まれた中で収録がスタートした。 西武ドームライブのリハーサルも佳境に入っているという渡辺美里さんに、まずは「はじめまして」という堅い挨拶が相沢の口からこぼれた。 心なしかブースの中の 空気が緊張に(もちろん相沢の)満ちている。その様子をスタッフは勿論、かのディ スクガレージ取締役社長の中西氏も見守っていた…というよりは、楽しんでいた。 (中西さん、お忙しい中ありがとうございました) |
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既に恒例となっている夏の西武ドームライブも、今年で17回目となる。17回 という回数に関しては、気が付いたら17年の月日が経っていましたという感じだと、 さらりと言ってのけるあたりに、美里さんの余裕が感じられる。 そもそもスタジアムライブを始めたのは1986年。その頃は何年も続けようと思っ ていたわけではなく、今年しかない今年しかないと思いながら続けてきたんだそうだ。 相沢は、西武ドームになる前の球場の頃に、数回ライブに足を運んだことがあり、 中でも印象深く残っている雨の中のステージのことを、美里さんに語り始めた。 す ると美里さんは、はいはいとばかりに笑顔になる。 「1986年から10数年の間は、球場も屋根がなく、雨の通り道にあったスタジ アムゆえに、雨(の中でのライブ)という印象を持っている人が多いみたいなんだけ ど、実際はそれほど雨が降っているわけじゃないんです。キラキラと綺麗に演出した かのような霧雨であったり、ムーンライト・ピクニックというタイトルの時には満月 が出ていたりしてね。まさに、自然現象までもが演出してくれているようなことが続 いているんですけど、テレビなんかでも、その(相沢が見に行ったときの)どしゃぶ りの雨の中のライブ映像が、何度も何度も流れるから、どうも雨の印象が強いみたい なんですよね」 「あ〜、確かに私も、何度か見に行っているのに、やっぱり あのどしゃぶりの日 の印象が強くて、それ以外のライブも雨だったような気になってるような・・・」と 言いかけたところで、美里さんは「気のせいだと思いますよ〜」と笑った。 「でも、見ている側としては、雨が降ったりすると結構盛り上ったりするものなんで すよね。」と、見る側の視点で迫る相沢。 「そうなんですよね。なんだかお客さんは自虐的になっているというか、そのどしゃ ぶりで中止になったライブ以降、自然のドラマを期待するようになっているのかなあっ て気がしてます(笑)」 「あはは。より一体感が出るというか、一緒に戦っているような気分になるという か…」 「試合じゃないんだから戦わなくてもいいんだけどね(笑)。でも、そんな自然の演 出効果にも助けられて、ずっと続けて来れたんだなと思うこともありますからね」 続いては、先日行なわれたNHKホールでのライブについての話題へ。 「すごく、コンディションがいいんだなぁっていう感じが見ていて伝わってきまし た。個人的にとても久しぶりに見ることができたので、常に変わらないパワーとか、 懐かしい歌を耳にしたときに、懐かしいというだけでなく、変わらない、色あせない 歌のすごさというものを感じました」 「音楽ってね、聴いてくださる方の曲との出会いの時期と、コンサートを見てもら う時期っていうのが多少ずれたりするものじゃないですか。学生時代に想い出があっ て聴いていたものを、社会人になってライブで見てくださったとしたら、すごい受け 止め方も違うだろうし、CDでキャッチしたばかりのときにライブを見てもらったら、 それはそれでまた違ってくると思うんです。音楽の世界には、どうしても流行り廃り というものがあると思うけど、私自身はいつも同じ状態、ギアをトップに入れた状態 で、なおかつそれがいつの時代に聴いてもらっても色あせずにいいなって思えるよう な曲を作っているつもりなんです。だから(相沢さんが感じてくれたように)昔の曲 が今聴いても新鮮と思ってもらえたら、自分自身満足というか(笑)。今自分でも、 歌いごろってうのかな、うーん…そういう時期に入っていると思うので、そういう意 味でもNHKのライブはすごく充実していたと思いますね」 ときどき、NHKホールのステージに立っている自分を思い浮かべながら話してい るような表情を見せながら、美里さんは音楽に対する姿勢を語ってくれた。 そして、 新しいアルバム『ソレイユ』の中から「YOU」が流れた。 「私、この曲すごい好きなんですけど。最初『ソレイユ』というタイトルを聞いて、 太陽のように明るくて前向きで元気な歌がギューっと詰まっているという気がしたん ですが、意外と光と影のコントラストというか、すごく痛い歌とかも入っていて、そ のコントラストがすごく印象的なアルバムだと思ったんですけど…。タイトルとかは 先に決めてから作品を作っていっているんですか?」 「いえ、いつもは曲が何曲かできあがってきた段階で決めるんですけど。前から 『ソレイユ』というのはつけたかったタイトルだったし、全体像が自分の中でぼんや りとできあがってはいました。でも作っていくうちに段々違う方向に行ってしまうこ ともよくあるので、仕上げたい雰囲気が『ソレイユ』に近づけばいいなと思っていま した。私には、夏にスタジアムという場所でライブをやっているだけに、はじけたイ メージがあると思うんだけど、そういう(明るい)部分での太陽ではなくて、痛みだ とか光と影の影の部分とか、元気なように見えてもその裏にある人の感情とか言葉に しない言葉っていうような気持ちをたくさん盛り込んでいけたらいいなと思っていた んです。だからこそ、『ソレイユ』というタイトルには、外に向かってエネルギーを 発していきたいというか、空に向かって高く伸びていきたいという思いと、その逆に ある傷みたいなものを表現できたらいいなと思ったんですけどね」 「なんか、そういう影の部分があるからこそ、すごくタイトルにも深みというもの を感じたんですけど」 「うーん、だから私がティーンエイジャーだったり20代前半の頃に『ソレイユ』っ ていうタイトルをつけたら、麦わら帽子かぶってニコニコッみたいな雰囲気のものを 作っていたと思うけど、今の私は大人だし、作りたい世界観というのがこのアルバム に凝縮できたと思います。勿論これが全てではなくて、この先に続きがあるんですけ どね」 「美里さんにとって、20代のときと今とでは、歌っていきたいこととか、伝えて いきたいことというのに変化はあったんですか?」 「うーん、そうだなあ。基本的には3歳のときから性格は変わってなくて、あはは。 色々な人との出会いやその反面にある別れを通して、学ぶことや学ばなくてもよかっ たなーと思うことも含めて体験というのは積み重なっていきますよね。だからそうい う部分では、すごく変化していると思うけど、でも歌いたいと思う軸の部分では、今 のところブレも感じていないので、変わってないんじゃないのかなと思いますね。大 切にしたいと思うこととか、これは嫌だって思うことって、あまり変わらない気がす るんですよね。それが色々な表現方法、例えば言葉の組み合わせや出会うメロディー や歌い方によって変わってくるので、昔は白い世界を歌いたかったけど、今はブルー の世界が歌いたいですっていう変化はないですね。変化しつつ変わらない部分という のが自分の中にはあると思います」 「多分、ずっと美里さんの歌を聴いてきた人間にとっては、時代によって少しずつ 加わる変化はあったとしても、漠然と聴いたときの印象というのは、変わらないんで すよ。私が思う美里さんの歌には、カンカン照りの元気な夏というよりは、ちょっと 切ない、天気が良すぎるからちょっと切なくなるような感じとか、ああいう肌触りが して、それが変わらないなあって(NHKホールの時も)思ったんです」と、美里さ んの楽曲を、自分なりの表現で言葉にしていく相沢。 「その切なさみたいなことを歌うことって、自分のいいところだと思っているんで す。よく私は、元気だとかパワフルだとかいう表現をされるんですけど…、一番自分 で得意とする分野は切なさだって思っているんですけど、あまりそう思われていない んですよね(笑)。ただファンの方たちとかは、私のパワフルさの裏にあるそういう 切なさっていうのを感じ取ってくれているからこそ好きって言ってくれているんじゃ ないかあと思ってますけどね」 「そうですねぇ、やっぱりコンサートとか見てると、結構ううってくる瞬間とか多 くて…」と言ったところで美里さんの突っ込みが。 「別に 泣かせるつもりだぜって感じじゃないんですけど」 「そうなんですよねぇ(笑)。美里さんが輝いていればいるほど、ジーンとなる感 じっていうのは不思議だなあって この前(NHKホールの時も)も思ったんですよ」 後半は、美里さんのリクエスト曲、Three dog nightの『Joy to The world』からスタート。この曲は、数年前ロスに旅行に行った際に、 カーラジオから流れてきて、昔から知っていたけど改めて聴くといいなーって思った んだとか。そして偶然にも帰りの飛行機内のラジオで耳にし、楽しいロス気分のまま 日本に帰ることができ、そしてさらに帰国後も車の中で耳にしたとかで、その偶然を 単なる偶然だとは思えなかったという。 「私ね、そういう偶然の出会いや偶然の積み重なりって結構多いんですよ。これは なんかあるなって思って、ゴキゲンソングのひとつに入っているんです」 そしてリスナーからの、「美里さんは連続ドラマを見るの?相沢さんの好きな青春 ものに、美里さんの曲はぴったりだと思う」というメールを紹介。 「青春ものが お好きなんですか?」という質問に、相沢も即答。 「大好きですね!ラブストーリーというよりも、ダメな人が頑張る話とか、泣けちゃ う感じとか、永遠に変わらない輝きとか、そういうものが好きですね。だから美里さ んの楽曲も(そういうものに通じるものがあって)好きなのかも」 「そう言って頂けると嬉しいですねぇ。私はいつも詞を書くときに、映像的に作っ ていくんですね。自分の思いを気持ちばっかりで言葉で押し込んでいくというよりか は、ちゃんと俯瞰で見て、カメラが今アップ、今は手元だけ、みたいな、そういう世 界観で詞を作っているところがあるんですよ。それにずっと輝き続けるというテーマ も自分の中にあるので、(相沢さんに)そう言って頂けると嬉しいですね」 連続ドラマに関しては、「見られるときと見られないときとがバラバラ。例えばラ イブが終わってホテルに帰り、ちょっとテレビをつけたときに、たまたま野球が延長 していたから見ることができたりっていうのはありましたけどね(笑)」と。 印象に残っている作品に、堤真一さんと南果歩さんが共演したNHKドラマ「橋の 上で会おうよ」というドラマを挙げた。随分昔の作品で、堤さんもまだまだ世の中の 人に知られていない存在だったとか。 「堤さんも、今は人気が出て有名になられましたけど、私はその頃からこの人はイ イ!って思ってましたね。」と力強く語る美里さん、さすが先見の明あり!? 『MY REVOLUTION』や『BELIEVE』も、実はドラマの主題歌に なっていたのだが、そのドラマのオンエア時は、ご自身のラジオ番組の打ち合わせの 時間帯で、ちっとも見ることができなかったというエピソードも。 「でも、ドラマは好きですよ。」というひと言に、「いつか機会があったら、私の 書いたドラマもぜひ見てください!」と相沢。 そのドラマが、「脚本 相沢友子、主題歌 渡辺美里」というコラボレーションの 青春ドラマであることも夢ではないのではなかろうか・・・ 引き続きリスナーから、今度は夏の健康管理についての質問が。 「寒いのは苦手だし、夏生まれということもあって、きっと夏のほうが自分のリズ ムにあっているとは思うんですよ。だから、どちらかというと夏のほうが元気ですけ ど…、なんか好きも嫌いも言っていられないくらい、デビューしてから夏休みもなく 17年間走ってきちゃったので、もしかしたら私、夏は苦手かもしれないんですよね (笑)。 やっぱりね、食べること、寝ること、それから心の状態をイイ状態にするこ と、これが基本ですね。 睡眠や食事がしっかりしていても、心の状態が悪かったらダ メですね」 なんでも去年、美里さんは、仕事の環境が劣悪な状況であったことからのストレス で、仕事が一段落し、休暇になった瞬間に、体中に発疹が出てしまったのだとか。 「好きな友人と会い、楽しく食事をし、なおかつ遊んでるにも関わらず、これまで たまっていたものが一気に出てしまったということなんでしょうね。休んでいいよっ ていう状態になった途端、体が反応してしまって。これまでにない経験だったので自 分でも驚きましたよ。だから、睡眠だけ、食事だけっていう、どれかひとつだけでは ダメで、バランスっていうのが大切なんだと思いますよ。飽食はいけないけれど、き ちっとしたもの、ごぼうを食べるとかニンジンを食べるとか、根っこから生えてきて いるものをいただくというのが大切です!」という力強い言葉に、一同納得。 この夏を、元気に乗り切りたいという方は、ぜひ根菜を召し上がれ! 元気な明るさの裏側にある切なさ。 「元気?」って聞かれて「元気じゃない」とは なかなか言えないようなところ、 元気じゃないからこそ、「元気、元気」って言って、実は自分自身を励ましているよ うなところ、そんな誰もが持っているのに気付かないでいる部分を、美里さんは見事 にとらえているのだと思う。 悲惨な事件や理不尽な問題が絶えない世の中を潜り抜け、走り続けている美里さん は、永遠に輝きを失わない「ソレイユ」であることは間違いない。 その光とエネルギーを受けながら、私たちも、個々に輝いていたいものである。 |
― ON AIR LIST ― 1 ソレイユ/渡辺美里 2 YOU/渡辺美里 3 Lovin' you/渡辺美里 4 JOY TO THE WORLD/Three dog night 5 STARDUST/NAT KING COLE 6 真夏の午後/相沢友子 |
<うさぎのちょっとひとりごと> |
数年前、美里さんに会ったのもやはり夏でした。美里さんがパワフルに見えるのは、
あの瞳のせいだと、確かその時も感じました。 太陽は明るくて、胸の内に秘めたエ
ネルギーを光と熱に変えて、人を元気にさせる存在。だけど、とても孤独な存在でも
ある。今回のアルバムではそんな太陽が持っているもうひとつの部分を表現したと語っ
た美里さん。私も、美里さんのもうひとつの部分を発見できたような気がしました。 |