REPORT 11

 
 2002.08.30.Fri

 真夏特有のじりじりと焼けるような日差しが、なぜか恋しくなる夏の終わり。 入 道雲は、もう遠くにいってしまったのだろうか…
 そんな8月のゲストは、相沢のアルバムのプロデューサーでもある西本明さん。9月にソロアルバムをリリースされるということで、できたてのアルバムと共に登場してくれた。

 軽快な草原を吹き抜ける風のようなメロディライン。1曲目は西本さんのソロアルバムから『NEW COUNTRY AGE PLAYER』を聴く。

 相沢と西本さんとの出会いは、相沢が18歳の頃に遡る。尾崎豊が好きでよく聴い ていた相沢は、デビューが決った際に、尾崎さんのアレンジャーをつとめていた西本明にプロデュースを依頼。その後、アルバムを3枚共に制作した。
 「詩にこだわりのある女性シンガーがいて、面白いからやってみないか…と紹介されてね」
 「いろいろ困らせたりもしましたねぇ(笑)」「いえいえ楽しいことは一杯ありましたよ」と、クリエイティブなことでぶつかり合いながらも、答えを見つけ出してカタチにした3枚のアルバム制作のことを振り返るふたり。
 そして今、長い年月を経て、相沢は脚本家として作品を作り続け、西本さんは音楽活動を続ける中、今回待望のセルフプロデュースによるソロアルバムを作った。

 「ピアノマンナイト」というキーボード仲間同士のイベントで、初めて自分のオリ ジナル作品を人に聴いてもらうという経験をした西本さんは、自分の作品をひとつの 形にしたいという気持ちになったという。仲間達の薦めもあり、ファンの方にも望ま れて…という流れが、リリースのきっかけになったという。でも何よりも、自分の作 品をひとつの形にしたいという西本さん本人の強い願いが実現したに違いない。

 相沢さんの楽曲をプロデュースした中で、印象深い楽曲は?というリスナーからの 質問に対し、真っ先に返ってきた答えは、『真夏の午後』だった。
 今日、相沢に会うという事で、改めてアルバムを聴きなおしてみたところ、最も印 象深いのはアルバム『安心毛布』のレコーディングで、その中でも「セミの声に…」 ではじまる『真夏の午後』が、バーンと頭の中に浮かんできたんだとか。
 そしてもうひとつは、シングル『僕のせいじゃない』。
 「あれのね、言葉が好きで。…あの…しゃべってるとこあるじゃない?・・・なん だっけな・・・(ここで 相沢が 歌詞をつぶやくと・・・)そう、あれが好きでさ」 と西本さん。
 一方相沢自身が最も印象に残っているのは、『他の誰かではなく』。西本さんとふ たりでブースに入って、いっせいのせでやろう!と決めてかかったので、すごく緊張 感があったと話した。

 相沢が歌う『真夏の午後』を聞いた後で、ソロアルバム『WISH』の話へ。  古いものは、なんと20歳頃に作った曲も含まれているという、このアルバム。 まさに西本さんがこれまでに作り続けてきた作品の集大成であり、歴史を物語る記念 すべき 最初の一枚なのである。
 20歳の頃に作った曲から、最近作った曲、相沢と作った楽曲、色々なミュージシャ ンとコラボレイトすることで生まれた楽曲が、今 ひとつにまとめられたと考えると、 襟を正さずにはいられない。「やっと」という言葉がこれほど良い意味で使えるタイ ミングはないかもしれない。

 相沢は西本さんの曲作りに関して、興味深い質問を次々とぶつける。
 「タイトルを決めて、そこからふくらむものを曲にしていくのか」
 「歌詞も何もない状態から曲を作るということは、どんな風景をイメージしている のか…」
 西本さんはそれに対し、ひとつひとつ自分の作業を確認するかのように、ぽつりぽ つりと語り始める。

 タイトルを決めてから曲を作るのではなく、例えば、朝目が覚めたときに夢の中で 鳴っていた音や、家に帰ってきたときに、頭の中で鳴っている音をピアノで弾いてみ て、曲に仕上げたりすることが多い。 そんな中でも、いつも思い描くベースとなる イメージがあり、それは相沢がよく好きだと話している、夏のとある光景だと言う。 夏の乾いた空気の中に、セミの声が鳴り響き、そのミーンという声に世界が白くなっ てしまうというような、そういう時間を忘れてしまうような、そんな場面が好きなん だそうだ。そして、その好きという気持ちこそ、相沢との共通点であり、相沢とのコ ラボレイトの原点であるとも語った。

 「ひとつの楽曲を仕上げるには結構時間がかかる。(メロディーの)糸口だけが出て きて、引っ張ったらプツンと切れてしまったりね(笑)。で、じゃあこれはちょっと とって置こうと思ったり」
 「ははは(笑)。でもそれをとっておいて寝かせておくと、また何年後かにきっか けになったりとか…」
 「そう、あ、これとこれがつながるかもっていうことが、ほんとにあってね」  こういうことが繰り返されることで、西本さんの曲が作られ守られてきたのだろう と思う。

 相沢が、西本さんとのレコーディングの中で印象深かった曲として挙げた『他の誰 かではなく』を、今回のアルバムの中で、実際に西本さんが歌っている。

 「(自分の曲に)言葉をつけてもらって、曲と詞を刷り合わせてできた作品として はすごく貴重なので、ぜひ自分でも歌ってみたいなと思ったんですよね。…で、詞の 世界ってのは歌ってみたらどんどんどんどんいろんなことが自分の中で新たにわかっ てくるもので、歌っているうちに色々な景色が見えてきて、自分は言葉型の人間じゃ ないんだなということも改めてわかったし、(相沢さんは)こんなことを詞にしたかっ たんだなということも見えてきましたね。だからこそ、もっと自分でも歌いたいと思 いましたね」
 「じゃあ、私がこの言葉だけはカットしたくない!とか言ってたことも、(今なら) なんかわかるかな〜って感じですかね(笑)」

 ここで、西本さんが歌う『他の誰かではなく』が 静かに流れ・・・

 「男性が歌うと、全然また違う表情になるんだなあと思いました」というのが、西 本さんが歌う『他の誰かではなく』を聴いての相沢の第一声。
 「男性が、しかも西本さんのようにある程度年齢を重ね、いろいろな経験をされた 男性が歌うと、すご〜い深みが増すなあとつくづく思いました」と力を入れて感想を 述べる相沢を前に、西本さんは「ん、いや…、ん、ありがとうございます。ね」と、 照れくさそうだった。

 後半は、西本さんが本屋さんでアルバイトをしながら、自分の人生をどうしようか なと考えている頃に毎日聴いていたというJACKSON BROWNEの『LATE FOR THE SKY』 からスタート。
 当時はLPだったので、片面、それもなぜかA面だけを聴いてからバイトに出かけ ていたんだとか。その話を聞いて、相沢は自分も知らない18歳の悩める青年である 西本さんを思い描いていたようだった。

 続いては、この番組のお便りのテーマにもなっている、「心に残っている大切な言 葉達」についての話を伺う。
 西本さんにとっての心に残っている言葉というのは、最近、長年付き合っている友 達に言われたひと言。なんでも、このアルバムを作る前に自分はこんなことをしてい ていいのだろうかと悩んだ時期があって、グチでも聞いてもらおうと思って、その友 達に連絡をしたんだとか。すると、彼の最初のひとことが「甘ったれるんじゃんない よ!お前は好きなことをやってきて、お前がそうしてきたから今のお前があるんじゃ ないか!」と言われた。

 「正直カチーンともきたし、んもう〜っと思ってその時は家に帰ったんだけど・・・ こんなことを(この年齢になってから)言ってくれる人はそうそういないし、貴重だ と思いましたね」
 「この番組ではこれまでにも、いろいろな言葉を紹介しているんですけども、いつ も結論として、言葉そのものも勿論大切だけど、誰がそう言ってくれたかが重要だよ ねってことになるんですよ。西本さんも、最近付き合いはじめたちょっとした人にい きなり甘ったれんなよと言われたら、しゃれにならない話じゃないですか」
 「あの時、(あの言葉は)自分に必要な言葉だったのかもしれないですね」
 そう、言葉は勿論、その言葉をそのタイミングで言ってくれる人がいるということ こそが大切なのだろう。

 西本さんのソロアルバムから『SAMIDARE』を聴く。

 「切ないですねぇ、西本さんのピアノって。ん〜なんかね、不思議な感じですよね、 どっか気持ちの糸口みたいなものをくすぐられるというか…」
 という相沢の言葉に、またもや照れくさそうな西本さん。 そんなシャイな表現者 である西本さんが、このアルバムのリリースを記念して、ライブを行なう。 まだリ ハーサルも始まっていないというが、どんなライブになるのだろうか。

 ライブとレコーディングと どちらが好きか?という相沢の質問に、西本さんはこ う答えた。
 「ん〜、ほんというとでも、レコーディングしてるのって好きで、こう…オタクな 作業というか(笑)、密室で同じことをずーっとするっていうのが自分に合っている なと思うんですよね。.・・・んー、やれって言われたらずっとやってるかもしれな い(笑)」
 「あはははは(笑)、そうかもしれないですね。」
 「でも人前で歌うことっていうのも、自分にとってはすごく楽しみにしていること です」

− ON AIR LIST −

1 NEW COUNTRY AGE PLAYER/西本明
2 真夏の午後/相沢友子
3 他の誰かではなく/西本明
4 LATE FOR THE SKY/JACKSON BROWNE
5 SAMIDARE/西本明
6 他の誰かではなく/相沢友子

 ひと通りのトークが終わり、最後の曲として相沢友子が歌う『他の誰かではなく』が流れ始めたとき、西本さんは ほっとしたように最高の笑顔を見せてくれた。

 カヴァー曲が氾濫する 昨今の音楽界。 この『他の誰かではなく』も、ある意味ではカヴァーというのかもしれない。
 でも私は、他の誰かではなく、音の世界を創り上げた西本明と、言葉の世界を創り上げた相沢友子のふたりだけにしかできない、ゆるぎなく輝かしい楽曲であると、強く強く思っている。


<うさぎのちょっとひとりごと>
 10年ひと昔とよく言うけれど、10年以上続いている関係というのは、宝物だな と思う。 もちろん長ければいいという訳ではないけど、お互いの歴史を知っている こと(例えば、18歳の自分も19歳の自分も、そして今の自分も知ってくれている ということ)がどれだけ素晴らしいことかを、言葉にしなくても分かり合えるように なるには、そのくらいの時間が必要なんだろうな…と。うん…今回は、本当にしみじ みと思ったうさぎなのでした。