REPORT 12

 
 2002.10.25.Fri

 風が通り抜けていく。夏のそれよりも冷たく、冬のそれよりも軽やかに。
 日毎に、トレーナーの重みが心地よく感じるようになってくる。そんな10月のゲ ストは、LIPNITZ。10月2日に待望の1st mini albumをリリー スしたばかりの彼ら。 ラジオは初登場とのことで、くすぐったいような緊張感が色々 なところに見え隠れしていた。

 「緊張するんで早く始めましょーよー」と口火を切ったというか、まとめたのは三 村さん。じゃあ始めましょうかという流れで、まずは自己紹介から。
 「こんばんは。LIPNITZの三村です。ピアノ、ヴォーカルを担当しております」
 「えーと、こんばんは。ベースとコーラスの…いくです。よろしくお願いします」
 「こんばんはぁ、えー ドラムの今村浩二です。お願いします。」
 「よろしくお願いします」と相沢。 予想通りのスタンダードさというか、琴の音 でも聞こえてきそうな雰囲気に、スタッフは微笑。
 「今日は突然お呼びだてして…という感じなんですけど、ほんと偶然4年位前にラ イブハウスでたまたまライブを見て、いいなぁと思いデモテープを買って帰って、そ の後もずっと気になっていたバンドだったんですよ〜。先週、スタッフにいいバンド がいると紹介されてね、あ〜っ!って盛り上った訳なんですけど…」

 ドラムの今村さんは去年の12月からLIPNITZに加入。それまでは他のバンドの奏者として顔見知りの関係。三村さんの、やってみない?の一声で加入が決定し、今に 至っているのだそう。 相沢が基本中の基本ともいえる(バンド名の)LIPNIT Zの意味を尋ねると・・・
 「イメージは、宇宙船なんです。人工衛星にLIPNITZというのがあるんです けど、そこから、宇宙船LIPNITZ号、みんなで飛び立とうぜ〜って、ね(笑)」
 と、今村さんに視線を向ける三村さん。
 「ね、って…ね、って言われてもね(笑)」
 「でも、本当はドイツの哲学者の名前でもあるんですけど、まあ それはちょっと 知らないふりをしてきてます」
 知らないふりっていう感じが、LIPNITZらしい。

 「私は何が一番気になったかというと、やっぱり詞の世界だったんですよね。詞自 体にはストーリーがある訳ではなくて、どちらかというとポンと言葉をコラージュし ていく、置いていくだけ、断片という感じなのに、聞くと物凄い物語性を感じるなあっ ていうのがあって、それがなんか凄くいいなあと思ったんですけど。詞・曲は三村さ んが書かれているんですよね。言葉から入るタイプですか?それともメロディが先で すか?」
 「曲が先ですね。こうフンフン言ってて、まあそのメロディから出てくるカナの響 きとか、で、ポンポンつけていくんですけど…」
 「ひまわり・赤い・夏っていうような言葉がキーワードになっている(たくさん登 場している)ように思えるんですけど、割と風景とかが頭の中にできていて、言葉が 出てくる感じなんですか?」
 「いや…、そう言う訳じゃなくて、どうなのかなあ。ま、ひまわりとかって近くで 見るとグロテスクだし、夏っていうのも色気があるし、なんか…そういうある程度温 度のある言葉をポッポッと選ぶっていうか・・・うん」

 「演劇集団キャラメルボックスにも楽曲提供なさっているみたいですけど、これは 依頼があって(新たに)書かれたんですか?それとも既存の曲が使われたんですか?」
 「もともとあった曲ですね。キャラメルさんの社長さんが、僕達の曲を非常に気に 入ってくださって、ぜひ…みたいな。細く長く繋がっているんです(笑)…」
 「勿論、(その楽曲が使われた)お芝居は見にいかれたんですよね?」
 「あ、勿論。すごくいいシーンで使われていて、その曲をライブでやっても、その シーンしか浮かんでこないくらい(笑)、それくらい強烈なシーンだったんで、でも まあ、ああやって大勢の人の前でね…」
 と、照れくさそうにする三村さんをフォローするかのように、いくさんが後を続け る。 「・・・ドキドキしました」
 「キャラメルボックスっていうのは音楽にもこだわりがある劇団というイメージが あって、 使われている楽曲は誰の曲なんだろうと興味を持つしね。私も好きでよく 見に行ってたんですけど、(LIPNITZと)世界観はあっているという感じがし ますよね」
 「そうですね、ちょっとファンタジーっぽい部分が含まれている芝居だなっていう 気がするんで…」

 ここで、相沢がデモテープの中でもお気に入りだったという曲、『FAKE SO UL FREE〜1970 version〜』が流れる。

 続いてはこの番組のお便りのテーマのひとつ、「大切な言葉たち」について聞く。
 「じゃあ、いく様から…」という相沢の言葉と同時に、いくさんに視線が集まる。
 「…あたしですか?…最近ちょっと携帯は水没させるな…っていう…」
 「うははっ(笑)」予想外の言葉に、思わず笑う相沢。
 「それ(大切な)言葉か?」と突っ込む今村さん。
 「いやあ、大切じゃないですかぁ、携帯のメモリーとかも・・・」
 「あはは、ってことは水没させたんですね?」相沢、笑いがとまらず。
 「どこで水没させたんだよ」少々あきれ顔の三村さん。
 「…いやあ、その、水溜りに、落として…ね…」
 「水溜りぃ!?」驚く相沢。
 「大変だったんですよ、・・・・・・なんか三村くんが言いたそうなんですけど…」
 「いや、ほんとはね、トイレに落としたんだよ」と三村さん。 どひゃっひゃ、と 一同笑う。
 「そうなんですか??」と尋ねる相沢に、静かに頷くいくさん。
 「いやね、みんな落としてるんですよ、トイレに」と三村さんが言えば、 「俺も 落としたことあるよ」と今村さん。
 「みんな思ってんだよ、トイレだって。だめだよ、水溜りなんて言ったって(笑)。 まあ使用前だったみたいだけどね。…もう 今村さん(この会話の流れを)キレイに してよ!」

 「困ったなあ…どうしようかなぁ、うん、じゃあわかった。俺がきれいにまとめよ う!あのね、『それがお前だ』って言われた時があるんですよ。長い間ドラムとかやっ てると、本当に俺はこれでいいのか?って思ったり、他の人の派手なドラムを見てい ると、このままのスタイルでいいのか?って悩んだりすることがあってね。そういう 時にお世話になっている人に『そうやってストイックにリズムを叩くのがお前なんだ よ。それがお前なんだよ』って言われて。ちょっと救われたというかね…ね、キレイ でしょ?」
 「いいねぇ、いい話だねえ。…お前はそれでいいんだよとかって 一度言われてみ たいよねぁ」としみじみ遠くをみつめるような表情でつぶやく三村さんに、 「言っ てんじゃん、俺がいつも。」と今村さん。
 「あああ、あそっか、すみませんね(笑)。」
 「(その言葉は)最高の褒め言葉ですよね。でも、言われる人にもよるんでしょう ね。今村さんにとってその言葉を言ってくれた方って、きっと…」
 「ってことは、三村君にとっては俺に言われてもダメだってこと!!」
 「あ、いや そういう意味じゃなくて(笑)…。じゃ、そんな三村さんの大切な言 葉は?」

 「俺は…人から言われた言葉じゃなくて、心がけていることなんですけど、『等身 大でいつもいたい』って思ってます。なんかくそ真面目ですけど。説明過多になった り、マッチョに振舞ってみたりね、まあ結局無理はできないじゃないですか、うん」
 「ライブも自然体ですよね?…って1回しか見たことないですけどね(笑)。こう …過剰なアピールっていうのを感じなくって…」
 「最近はスゴイですよ、グランドピアノ持ち込んでるしね(笑)!」
 「そう、グランド、グランド(笑)!」
 「あ、そうなんですか?やっぱり今のLIPNITZを見なくちゃダメですね、私。語っ ちゃダメだね、こんな風に」
 相沢にはグランドピアノというジョークは伝わらなかったらしい(グランドピアノ は三村さんが作ったミニチュアのものだとか)。真剣に今のLIPNITZを見なければ!と いう気持ちになっている様子。

 「あの、近々ライブの予定なんかは?」
 「はい。一番近いのは10月31日吉祥寺プラネットKです。で、11月16日土 曜日は、 渋谷セブンスフロア、ま、僕(三村)の弾き語りなんですけど。で、11 月21日木曜日 は下北ガレージ、そして11月27日水曜日は横浜のクラブ24」
 「結構やってますよね、本数も」
 「そうですね、まあいろんな人に見てもらいたいなと思うんで」
 「私もぜひ見に行きたいと思っています。今日聴いて、いいなあって思った人もた くさんいると思うんで、ぜひとも足を運んでみて欲しいと思います」

 来年1月22日にミニアルバム「selftimer sleep」(タイトルは まだ仮だそうです)をリリース予定ということで、楽しみが一杯なLIPNITZ。
 「(来年には)また新たな楽曲を聞くことができるということで、私自身も楽しみ にしていますので、今後も頑張ってください。今日は、どうも本当に突然でしたが、 お会いできて嬉しかったです。ありがとうございました!」

− ON AIR LIST −

1 MIND COASTER/LIPNITZ
2 FAKE SOUL FREE〜1970 vertion〜/lipnitz
3 エルフィー/LIPNITZ
4 アルカディア/キリンジ
5 WIND/明星(あけぼし)
6 DEAR…/相沢友子

 「あいまいと曖昧とをつなぐフリスビー」と歌ったのはLIPNITZ。 LIP NITZと相沢友子をつないだのは、1本のデモテープ。 人と人との出会いは、こ んなふうに唐突で、単純だけど素敵だ。
 これから先、どんな出会いが待っているのかわからない。だからこそ、どんな出会 いも大切にするべきだということを、いつも心の端に書き留めておきたいものだ。


<うさぎのちょっとひとりごと>
 静かなる色を持った方たちだと思いました。彼らの沈黙にメロディを感じたのは、 多分私だけではないはず。 三村さんは嫉妬心が強くて、(人のやっている音楽につい て)「うわあ、いいなあっ」って本気で思うと寝込んじゃうと言っていましたが、実 は私も同じ。ばっかじゃないのって思うけど、そういう気持ちは原動力にもなって、 結構大切だったりするんです。ね、三村さん。