REPORT 21

 
 2003.08.22.Fri

 これといった夏の想い出も作れないまま、8月も下旬に差し掛かってしまった。「夏」って、こんなはずじゃなかった。夏という曲を奏でる、オルゴールのねじを巻くような声で鳴くはずの蝉も、眠りについてしまったのだろうか……。
 何もかもが中途半端に感じた8月。遠く北海道から、第15回太宰治賞受賞者である、小説家・冴桐由さんをお招きした。


 「こんばんは。よろしくお願いします」
 「よろしくお願いします……」
 「えーと、冴桐さんとはですね、第15回太宰治賞っていうのが……あれは、1999年?(冴桐さんに問いかけて、冴桐さんの大きなうなづきを確認してから)ですね。あの時確か、20年ぶりに復活した、三鷹市と筑摩書房が主催した賞だったんですけど、ちょうど同じ年に(作品を)応募したのがきっかけで……まあ、私は入選。(太宰治賞を)受賞されたのが冴桐さん、っていうことで」
 「うん、たまたまね(笑)」と、冴桐さんがポソッとひとこと。
 「……っていうことなんですけど(笑)、それ以来太宰賞のパーティーで会ったりメールでやりとりをしたりとかして、親しくさせていただいているんですけども……。今日は、どうですか、ラジオ」
 「はぁ、初めてで……」
 「どんな感じですか」
 「いや、面白いですねぇ、ふふ」
 冴桐さんは、鼻で笑うんだけれども、それは嫌味成分が浄化された極上のものだ。


 「ここで、1999年の(太宰治)賞のことを振り返ってみようと思うんですが、あの時書いた小説『最後の歌を越えて』。2000年の5月に筑摩書房から出版されているんですけど、これは初めての小説だったんですよね」
 「処女作ですね、完成したものとしてはね」
 「小説っていうのは前々から興味があったんですか? 書こうかなあとか」
 「結局二十歳くらいから書いてはいたんですよね……」
 「あ! そうなんですか?」
 「うん。全然完成しなくて。で、28とか9で初めて完成したのがこれで」
 「なるほどね。じゃ文章には取り組んでいたけども、完成に至らなかったというか」
 「そうそうそう」
 「頭の中ではなんかこう、伝えたいこととかイメージみたいなものはずっと……(あったんですか)?」
 「うーん、結局無かったんだろうね、当時はね、うーん」
 「あぁ、まとまらなかってことはね……。なぜ、太宰賞に応募しようと思いました?」
 「太宰賞ねぇ……なんかその、書けるようになったきっかけっていうのがあって。前の年にアフリカに行ったんですよね、協力隊で。それでこう、初めて自分の中で(本気で)小説を書こうという気になって、それで書きあがったとき、時期的に太宰賞があったんで応募しちゃった……」

 「それは、その協力隊での経験とか……」
 「なんかね、アフリカのショックでしたね。んー、カバに追っかけられたりね(笑)」
 「(!)ほんとにぃ? カバにぃ?(笑)」
 「カバ、あれ意外と怖いんだよね」
 「カバって速いのかな、走るの!」(子供のような相沢)
 「スゴイ速い!!(笑)」
 「あっはっは、速いんだぁ(笑)」
 「……っていうか 飛んでくるんだよね、水の中をポーンとね」
 「ええーっ(素の相沢)飛んでくるぅ?!(興味深々の相沢)」
 「ジャンプしてもぐったら、急に10mくらい先にまたポーンって飛んできて……」
 「ええーっっ!!(ものすごい楽しそうに驚く相沢)」
 「で、ボートに向かって襲ってくるから」
 「ボートで逃げたんですか?」
 「そうそうそう」
 「じゃ、怪我はなく……」
 「ねー」
 「え、ねーって(笑)、可笑しい!」

 「あ、でもそれじゃあなくて(書くキッカケになったのは)、それは楽しかったんだけど。エチオピアでね、戦争が終わったばっかりで、信号のあたりにいると車の人たちにお金ちょうだーいってねだってきて、最初は俺達も(お金を)あげていたんだけど、そのうち追い払うようになっちゃって、そんな自分もなんか馬鹿みたいでね、なんか違うぞーみたいな。そこから初めて小説を書こうと本気になったみたいで」
 「なるほどねぇ。あの『最後の歌を越えて』もそうですし、今回7月の26日に出版されました『彼女にとって必要なもの 僕にとって大切なこと』っていう両作とも、戦いとかって出てきますよね。その、生き抜くために戦う姿勢とかっていうのがあるなと思ったんですけど、そういうところからきてるんですかねぇ」
 「なんかもとからこう、剥がれるでしょう。例えば今うちらはお金を持ったり着飾ったり色々いっぱいしてるけど、目の前にトラがぽーんと現れたら、そんなものすぐに剥がれ落ちて、素の自分になるわけで。戦いってそういうのが見えて、ある意味最も深いコミュニケーションだなあって思うから、多分無意識に出ちゃうんでしょうね……」
 「うーん。なんか、あの(1999年太宰賞)時、候補作が5作あって、一番その5作の中で私にとって未知の世界というか、違った感性を持っている人だなあって思ったんですよ、冴桐さんのこと。だから冴桐さんが受賞されたって聞いたときに…、勿論、本音を言えば(自分が)賞は欲しかったし、1等賞になったらやっぱり嬉しいのがで(笑)、悔しいっていうのはあったんですけど、でもなんていうのかな、自分と似た作風だったり、延長線上にある人が受賞したっていうよりは、すっきりしたってい うか。あ、こういう人が評価されるんだぁって、自分も手放しにすごい! って力を感じた作品だったんで……」
 という相沢の言葉を遮るように、
 「いや、あれはねぇ、ま、受賞はたまたまだから関係ないんだけど……」
 「いや、でも興味がありましたね。どんなことを考えている人なのかなあとか。私はどっちかっていうと、日常の淡々とした風景とかを書くんですけど……」
 「そうなんだよね、それが僕にはかけないんだよね。逆にね」
 「あー、じゃあ、そういうところが面白かったんですかね、お互いに」
 「んね」

 ここで、相沢が受賞したときの気持ちを聞くと、
 「んー、あの時はね、なんか有頂天になってたよね、振り返るとね!(笑)」
 「でも、自信はあったでしょ」
 「なんの根拠も無いね、自信はあったみたいだけどね、今思うと」
 「そりゃあやっぱり、みんなありますよね。自分も振り返ってみると、ある程度の自信がなくちゃね、応募もできないと思うんだけど。なんか実際に(賞を)獲って、出版されて……周りの状況とか変わらないですか?」
 「受賞した直後はすごい変わったねぇ」
 「あ、やっぱり」
 「受賞後ちょっと家を空けたら、その間に留守電に取材の要請が30件くらいばーっと入ってたり。あー、こういう世界なんだって思って」
 当時はたくさんの取材も受けたと言う冴桐さん。
 「振り返るとね、あの時はなんか有頂天になってるから、えらそーに取材とか受けててね、うーん」
 「あはは(笑)。そりゃあう頂点になりますよね。やったーって感じですもん。でも、そこがスタートじゃないですか。私なんかも歌でデビューが決まった時は、うわーってなったけれども、結局そこからが始まりな訳で。(冴桐さんは)そこから新しい作品が出版されるまでに2年半くらいの歳月が経っているということで、その2年半にあった様々なこととか、新しい作品についても伺っていきたいと思います」

 ここで、曲が流れる。ブースの中ではふたり楽しそうに話をしている。今はそれぞれ別々の目標に向っているものの、やはり「同士」という言葉がぴったりだ。

 「改めまして、よろしくお願いします。さっき私、(新しい作品を出版されるまでの期間を)2年半って言ったんですけど、3年ですね、正確には」
 「そうですね」
 「7月26日に、新作『彼女にとって必要なもの 僕にとって大切なこと』という本が出版されました。あの、読ませていただきました」
 「そうですか、ありがとうございます」
 「素直に面白いなーって思いました。なんていうのかな、前作と比べて今回の作品の方が私は好みです。すごくね、体温と言うか、熱みたいなものを感じたんですよ。心にダイレクトに熱が伝わってきて、後半とか何度も泣いちゃって。割と前作は、ストーリーテラーとして素晴らしいと思ったんですけど、感情的な部分では今回の方がすごく前に出てきていてるなっていうのが印象ですかね。その辺は自分でも、感じられますか」
 「うん。それがこの3年間で変わったところなんだろうなって」
 「やっぱり自分の内部でも変化はあったりしたんですか」
 「すごい変わったかな、やっぱり。1作目は熱がなく、どちらかというと理性に訴える感じでね」
 「それはそれで、またよかったと思うんですけど、(今作は)もっと頭を使わなくても入ってくるっていう感じがすごくして、素敵な作品だなあと思いました」
 「ありがとうございます」

 「今回も非常にファンタジックな作品でしたね。なんかライオンになってしまう女の子と、最初は遅れているけれども、どんどん素晴らしい能力を開花させていくティーポットと呼ばれる男の子」
 「んー、そういう個性的なキャラがね、……おかまの腹話術士とかね(笑)」
 「相変わらずね、キャラクター作りは冴桐さんだなあと思いましたよ。前から思ってたけど、ユニークですよね、ひとりひとり出てくる人たちが」
 「ある意味、平べったいキャラなんだけどね。こう、現実的にはいないだろうみたいなね。でもそのほうが、僕のいいたいことは表現できるだろうみたいなね」
 「主人公と彼女の関係がタイトル通り、心にくるところがあって、なんかずっと主人公が心を開いてくれなくても、タマーラという彼女は明るいじゃないですか。明るくてあまり細かい事を気にしないようでいて、でも後半にきて、ずっと苦しんできたってことが解って、あなたが振り向いてくれなくても、ずっと壁をたたき続けていた……っていうあのシーンとか、すごく良かった」
 「あー、確かに1作目には無かった熱みたいなところだよね、そこがね」
 「うーん。(冴桐さんは)恋でもしたんですかね(笑)」
 「えへへ。今回確かにキャラクターがそういうぶきっちょな人たちなんだよね。みんなそれぞれに悩みを抱えてるし、でもそれぞれが希望を抱えてるみたいな、そういうテーマ的な話で」

 「あと、美しさみたいなものもテーマになってましたよね。それから力を抜くっていうことは、割と私達の間でも一時期テーマになってて、生きていく上でいかに力を抜けるかってことが、実は逆に力を発揮できるかってことじゃないかっていうね」
 「そうだよね。あれはね、コロンブスの卵でね。なんか頑張らせようとするより、渾身の力を抜いたほうが楽に上手くいくんだっていうね」
 「それは多分、冴桐さんはず? 空手をやってらっしゃるということですけど、その極意っていうのもあるんですかね、力を抜くことっていうか……」
 「うーん。ま、力を抜く事っていうのは、そういう武術からなんだけど……。今回の(作品の)は、ひとことでいうと、希望っていうメッセージなんだよね。それが作品を作るときに何層かこうあって、その一番深い部分に社会全体に言いたい事があって、暗い事を考えがちなこの世の中にも希望があるよってことが言いたくて。そういうときに、未来にばっかりじゃなくて、実は過去に答えを持っているんだよってことが言いたかった。そのうちのひとつが力を抜く事っていうのもそうで、力を抜いてしまえば答えはあるんだよって」
 「あー、なんか解る。君は答えを知っているはずだよって。みんな本当は知っているのに、忘れているだけだよっていうことね、ありますね。まぁね、ちょっとプライベートな話にもなってしまうんですけど、冴桐さん自身空手をやられていたり、サルサをやられていたりして(笑)。結構今回は物語の中にも反映されてたじゃないですか。リズムの話とか……。やっぱりああいうのは、自然に作品の中ににじみ出ていくもんですかね」
 「やっぱり、つい伝えたくなっちゃうね」

 次に、作品を書くときの環境について聞いてみた。
 「これがね……、えらい地味〜なところで、地味〜に書いてて……(笑)」
 「そうなんですか? あの、どんな部屋ですか……」
 「いやこれ、逆に相沢さんがどんな部屋で書いてるのか知りたいですよね(笑)」
 「あはは、でもゲストは冴桐さんですから……」
 ここで、番組ディレクターからヘッドホンにメッセージが。
 「今、ディレクターのね、相沢は人に言えないらしいってつっこみが入りましたけど……。なかなかね、すごい格好して書いていたりしますよね!」
 「うはは。確かに」
 「窓とかに向ってます?」
 「……壁に向ってます」
 「壁なんだ。私は窓に向ってるんですけど。窓の外の緑とか見ながら書いてたりとか……って今、綺麗なところだけ言ってます(笑)」
 「あー、爽やかだね(笑)」
 ここからは、相沢の椅子の話に。
 腰が悪くなるから良い椅子を買いなさいと言われ、結構奮発して買ったのに、熱中してくると、膝を抱える癖があるため、その椅子の上で膝を抱えてしまっていると語った。
 冴桐さんにも癖を伺う。
 「なんだろうね。ウチは窓から見えるのは、対面のマンションの窓で。それがある意味鏡になっていて自分の顔が映るんで、なんかむなしく自分に手を振るくらいで……(笑)」
 続いて、書く時間帯について。
 「昔は夜書いてたんだけど、最近は朝方に。ちょっとヘルシーに(笑)」
 午前中の方が進むと、相沢も同意。活性化されている感じ、なんだそうだ。

 ブエナビスタ・ソシアルクラブの「CHAN CHAN」が流れた。この曲は、冴桐さんのリクエスト。新作を書いていた頃に聴いていた曲なんだとか。またその頃は、ロスで行われるサルサの大会に出場するために練習もしていたそうだ。
 「書くときって、割と音楽をかけたりします?」
 「最初だけかけて、そのうち乗ってきたら消すって感じ……。乗ってくると、邪魔になってきますよね」
 「世界に入るための導入ですよね」
 ふたりの意見は一致している。
 「今ちらっと話にもでましたけど、ロスアンゼルスでサルサの大会に出場していたということですが、サルサは習い始めてどれぐらいになるんですっけ?」
 「3年弱かなあ」
 「なぜ興味を持ったんですか?」  「なんかね、海外にいると踊る機会が多くって。パーティーになると、すぐに椅子をどけて踊りだしてて、あー踊れない自分が寂しいって思って。でね、2ヶ月くらいで覚えられるだろうと思ってたんだけど、これまた奥が深くて(笑)」
 「あはは。追求していくタイプですからねぇ(笑)サルサって、官能的な踊りですよね」
 「うん、セクシーってのがまた好きでね」
 ロスでは団体で踊ってきたそうで、きつい練習のことも忘れるほど、楽しかったそうだ。やはり、向こうの人はものすごく盛り上がってくれるから、ちょっとのアクションでも盛大な拍手を送ってくれたりするので、とても嬉しかったと語った。
 「音楽も踊りも、言葉が無くても一緒になれるっていう感じがありますよね」
 「そうだね、大会には世界の一流がいっぱい来てるから、彼らの踊りを見ているだけでもすごかった、感動するよね」

 多趣味と思われる冴桐さんに、相沢が質問する。
 「私事でなんですけど、テレビでドラマなんかは見たりしますか?」
 「あんまり続けては見ないんだけど。相沢さんのは見てるね。初めての連ドラ『旅館』か、あれが衝撃的でね。それよりも以前にミニドラマとかの作品を見せてもらっていたけど、初めてメジャーでデビューしたときの作品を見て、相沢さんが僕が受賞したときに思ったように、あー僕にないものを相沢さんは持ってるなーって思って」
 「あー、そうですかあ。旅館かあ。あれもすごく自分らしいかなって思えたりするんですけどね、馬鹿みたいに前向きな主人公とかね(笑)」
 「そうそう! で、みんなが最後には繋がって、感情移入もできて、頑張れって応援したくなっちゃうって言うね、すごいなあって思いました」
 「嬉しいですね。やっぱりお互いがね、ああ(太宰賞と)いうきっかけで知り合って。私も冴桐さんが新しい作品を出したと聞いてその作品を読み、面白いって思えたことも嬉しかったし、そうやってお互いが刺激しあいながら物語を作っていける関係でいられたらいいなって思いますね」

 続いて話題は、最近こっていることに。
 冴桐さんは、自分に合う本当の武術を捜し求めていたらしく、最近になって中国拳法を発見。毎回教えてもらう度に感動しているとのことだった。
 「僕的には、武術をやると羽を手に入れるようなイメージがあって。おかげですごい羽ばたいて、すごい世界が見えるみたいで……。ま、羽が無くても普段はなんの不自由も感じず、でも(羽を)手に入れたら別の世界が見える! みたいな感じでね。あんまり強くなろうとか、そういうことには興味なくて」
 「そういう世界観が、空気として漂ってますよ、作品に」
 「これも、メインのメッセージではないんだけどね。1作目は、ちょっと押し付けがましい部分もあったんだけど、今はそんな……。答えはひとつじゃなくて、それぞれが持つ物であるから、うちら話を作る人は答えを出すんじゃなくて、考えさせるきっかけを与える存在なんじゃないかなあと最近思うからね」
 余裕なお言葉に、スタッフも感動。

 最後は今後の展望を聞く。
 「ついこの間新作を出したばっかりですけど、もう次の構想とかはできてるんですか?」
 「もう構想はできていて、実際に書き始めてるんだけど、なかなかちょっと時間が作れなくて、ね、早く仕上げたいんだけど」
 「(構想中の)今度の新作って言うのは、どんな感じになりそうですか?」
 「んー、自分的には今までで一番いいのが書けそうな気がするんだけど。1作目はスケールは大きかったんだけど温度が無かったみたいな。2作目は温度はあるんだけど、ちょっと話が僕的には小さくなってて、ま、いいところをあわせて大きく暖かく書けそうな気がして」
 「いいですよね、そうやって書くことによって前進していけるというか、こうしたいああしたいっていうのが見えてくるっていうのは。テーマとかっていうのは、自分の中で常に一本変わらないものがあったりすると思います?」
 「多分あるんだろうね。僕の場合はまあ、アフリカのショックが結構繋がるんだと思ってね」
 「あのー、割と世界が、例えばどこの時代なんだろうとか、どこの国なんだろうとかちょっとぼかしてあるじゃないですか。例えばそれが日本での話になるとかっていう日が来るんですかね」
 「最初はね、デビューする前は日本の話ばっかりだったんだよね。でもアフリカ見てから書けなくなっちゃったんだよね。なんか日本を書きたいんだけど、その対照として違うところを書いちゃうんだろうね」
 「なるほどね。そっち(日本ではない国のこと)を書いたほうが、自分の言いたい事を普遍的に伝える事ができるってことですよね」
 「でもね、(登場人物の)名前、カタカナが多いから、それだけで苦情がきたりね。人に見せてもカタカナが多いとか言ってすぐに閉じられちゃったりとか(笑)」
 時に読者の方から、深く読み込んだゆえの熱いメッセージをもらうことがあると言う。
 「ありがたいよね……」
 「自分が発信するメッセージを受け取ってくれる人がいるっていう手ごたえみたいなものは、いいですよね」
 「ね、嬉しくなるよね」
 違う形ではあれど、メッセージを発信する側にいるふたり。心の底からの言葉だった。

 最後は、冴桐さんの展望を聞く。
 「1作目は雑巾を搾り出すように書いてたんだけど、今はほんと、書いていて楽しいって感じますね」
 「どんどん豊かになっていくというか? はー、いいですね。ずっとそういう気持ちで書き続けていただきたいと思います。執筆以外で今後何か目標としている事はありますか? 世界征服とか(笑)」
 「あはは。……そうね、カバに勝つ事かな(笑)」
 「また最初の話に戻りました(笑)。でもいつかまた、アフリカに行って何か変わったりする事もあるんでしょうね」
 「うーん、まだアフリカが終わってないような気がするから……」
 「そんな冴桐さんでずっと頑張っていただきたいと思います。ありがとうございました」
 「ありがとうございました」


 お互いに刺激をしあいながら、高めあいながら、励ましあいながら……。
 ライバルであり、同士であるふたり。 そんな関係がどれだけ素晴らしいものであるかを見せ付けられたひとときだった。

− ON AIR LIST −

1 I just need myself/Ocean Color Scene
2 波 白く/Ashid Man
3 Storm In A Tea Cup/Curve509
4 Chan Chan/Buena Vista Sosial Club
5 Mira Pa'dentro/Carlos Jean
6 真夏の午後/相沢友子


〈うさぎのちょっとひとりごと〉

 個人的に私が描いている勝手な「小説家」のイメージを、半分以上ひっくり返していただきました。空手にサルサ、カバに追われる……そんな様々な体験を、淡々と話されるあたりは、よい意味で摩訶不思議。「……ね」という、なんとも優しい響きを持った「ね」の発音。友人からの相談も多いとお聞きしましたが、納得です。思わず「もー、聞いてくれるぅ?」って相談したくなっちゃう感じでした。既に書き始めているという次回作、楽しみです。