EPISODE4 ~新番組『エ・アロール』制作発表REPORT | |||||||||
急ぎ足で歩くと、まだ少し汗ばむ。夏の頃よりも少しだけ遠い空は、まだ青く眩しいけれど、確実に季節は秋だ。そんな、気持ちよく晴れた9月18日。この秋からスタートする連続ドラマ『エ・アロール』の制作発表が行われた。
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都内某ホテルの36階。そこがドラマ男性出演者、そしてドラマの原作者である渡辺淳一さん、プロデューサーである貴島誠一郎さんの控え室だった。 どういうわけか、女性である相沢も、その部屋で待機することになっていた。 部屋に入ると、大きな窓の外には東京のシティビューが広がっている。 王様のような輝かしいオーラを感じた……と思ったら、そこには緒形拳さんがいらっしゃった。テーブルからちょっと離れ、出窓になっている部分にコーヒーカップを置き、うっすらと笑みを浮かべながら悠然と窓の外を眺めていらっしゃる。 相沢が入ってきたことに気がつくと、サングラス越しにも優しい瞳で笑いかけている様子。 「立木は、あの時は、ああいうことを言うのかな……言う?」「この前さ、○○のシーンをやったんだけど、あれよかったね、うん」 脚本上の台詞についてのコメントらしい。 相沢は、緒形さんのひとつひとつの言葉を受け止め、自分の考えや全体の流れと照らし合わせながら言葉を交わしている。 こんな光景、めったなことではお目にかかれない。 そうこうしているうちに、渡辺淳一さんが来られた。貴島プロデューサーに紹介され、相沢も挨拶を交わす。 渡辺さんは、「あー、この方。いやー、よく書いてくれましたね。お若い方だと聞いていたんで、ちょっと駄目なんじゃないかなぁと思ってたんだよ。わはは。でもね、すごく上手に書かれてますよ。映像になるのが楽しみだ」と笑顔。 「いやそんな……、ありがとうございます」と、さすがに緊張気味の相沢を、「ちょっとね、言っておきたいことがあるんですよ」とテーブルに誘った。 「おじいさんとか、おばあさんとかっていうのは、名前じゃないんですよね。老人にだって若い人と同じように、ひとりひとりに名前がある。おじいちゃん、おばあちゃんと呼んでいいのは、孫だけなんですよ、ほんとはね。でも今の日本の世の中は、そういう意識に欠けてる。だからね、その辺をシニカルに表現してみて欲しい。それが間違っているということをピシャリとやって欲しいんですよ、このドラマで」 広い控え室の中、大きなテーブルで向かい合う渡辺さんと相沢。 ……こんな光景、めったなことではお目にかかれない。 そうこうしているうちに、豊川悦司さん登場。想像以上にすらりと背が高い。貴島さんが、「来栖役の豊川悦司さんです」と紹介すると、豊川さんはその体を折り曲げるようにして、渡辺さんに深々と頭を下げた。 渡辺「あ、豊川さんね。随分背が高いねぇ。どのくらい高さ、あるの?」 豊川「185、くらいです……」 渡辺「で、(年は)いくつ?」 豊川「41です……」
ドラマ『エ・アロール』は、ベストセラー作家・渡辺淳一の話題の新作をもとに、都心の老人ホームで起こる大人たちの恋愛騒動を描いている。
仕事や世間の枠から解放されて自由になった高齢者たちに、楽しく気ままに暮らしてもらいたいという精神で建てられた「ヴィラ・エ・アロール」。ホームの院長である来栖貴文(豊川悦司)は、バイタリティーにあふれる高齢者たちとのやり取りの中で、恋人・園山麻子(木村佳乃)との恋愛関係も絡んで、時に振り回され、時に考えさせられながら「エ・アロール」精神を学んでいく、そんなストーリー。 「エ・アロール」というのは、かつてフランスのミッテラン大統領が新聞記者から受けた質問に対して答えた言葉。当時大統領には愛人が居て、彼女との間に子供もいることを知った記者たちがその真偽について尋ねたところ、大統領はひとこと「エ・アロウ(et alors)=それがどうしたの?」と言っただけ。記者たちも、それ以上は追及しなかった、そんなエピソードも含まれている。 「50代、60代の人達に納得してもらえるような、こんな年のとり方をしてみたい……と思ってもらえるような作品にしていきたい。ドラマ界の構造改革を目指して制作しています」と語ったのは、貴島プロデューサー。
続いては、各出演者からの挨拶。 まずは、来栖貴文役・豊川悦司さん。身長があるからなのか、記者の方々の目線に自分の目線を合わせるかのように、ちょっと背中を丸めた感じでマイクを持ち、静かに柔らかに話されました。 「日本の俳優界における、お宝のような役者さんと一緒に演技ができるということは、非常に光栄だと思っています。来栖が(ドラマの中で)様々な影響を受けて成長していくように、私自身も成長したいと思っています」 来栖の恋人、園山麻子役・木村佳乃さんは、司会者の方に名前を呼ばれるとハイといって立ち上がった。そして「木村佳乃です。……座らせていただきます!」と言って着席。木村さんらしい、可愛いパフォーマンス。 「素晴らしい大先輩に囲まれ、毎日ありえない緊張をしています(笑)。(麻子は)貴島さんから大人の女性になって欲しいという願いを込められて与えられた役なので、(麻子を)素適な女性にしたいです」 続いては、岡本杏子役・吉行和子さん。 「どうも(←かなりお上品な感じで……)、あたくしは……若くて知的な男性に恋をするという、もっともやりたかった役をいただけて、本当に嬉しいです。おまけにライバルは木村佳乃さんということで、もう答えは決まっているだろうと思われるかもしれませんが、これが、わかんないですよ~(笑)」 杉のり子役・水川あさみさん。 「私が演じるのり子は、明るくて今時の女の子です。若さを利用して(笑)、木村さんや吉行さん、草笛さんのライバルになれるように頑張りたいです」 そして藤谷智哉役・安居剣一郎さん。 「僕は、吉行さんに迫られる役なんですね(笑)。で、嫌がらなくちゃいけないんですけど…振り返ってみると嫌がってなかったなぁ……吉行さんならいいかなあなんて思ったり(笑)。これから頑張ります!」 会場も和やかな雰囲気になってきた頃、今度は江波玲香役・草笛光子さん。 「最近、女の役ではなく、婆さんの役ばかりだったので(笑)、今回の役はとっても嬉しいんです! 女は好かれるということが大切。好かれているだけで、皺も無くなっちゃいます(笑)。『ヴィラ・エ・アロール』のような所があったら、私も入りたくなるだろうなと思います。とにかく毎日(の仕事)が楽しくて仕方ないです。緒形さんと津川さんというふたりの男性に愛し、愛されてね、もう本当に女優冥利につきる役です」 草笛さんのご挨拶に、会場にも笑いが。続いては、野村義夫役・津川雅彦さん。 「この作品、視聴率が非常に気になります(笑)老人ものをやって、視聴率は上がる? いやぁ上がるとは思えません。でも(このドラマの登場人物達と)、同世代の人達にきちんと見てもらえるようなドラマにしたいですね。豊川さんとか、木村さんとかね、旬な方々に負けないように頑張らなければならない!(笑) しかし、緒形がプレイボーイ役、そしてこの私がカタブツの役。逆じゃないかと思っているんでしょうけど、本当は違うんです。緒形のようなね、ブスがもてて、僕のような二枚目がもてないんですよ(笑)だからね、今回は水を得た魚のように緒形さんは演じてるんじゃないの?(笑)草笛さんなんて、緒形の手が肩に置かれただけで、瑞々しいを通り越して、水になっちゃってますからね~(笑)。 このドラマは、生意気な若者へのメッセージです。『控えおろーっ!』ってね。どうぞ、ご支援ください。若者を立てる文化を脇に置いておいて、エ・アロール世代を盛り上げて欲しい!」 オーバーアクションで、立ったり座ったりしながらお話をされる津川さん。 「長々と話しましたけど、次はしゃべりがあんまり上手くない、緒形さんです。短めにね!」と、親友・緒形さんへの絶妙な振りもあり、会場にも笑いが。 そして最後は、立木重雄役・緒形拳さん。 「無口な緒形です。……楽しいっ! 66歳のプレイボーイっていうのを機嫌よくやってます。でもね、そういう演技をした後の楽屋では、津川さんとね、『ガタ(←緒形さんのこと)、お前夜中に何べんオシッコ行く?』『オレは行かないよ!』『俺は2回だ』『お前、年寄りだなぁ』っていう会話をしたりしてね、落差のある日々を送っています。よろしく!」 大御所というのは、その動作ひとつ、その言葉ひとつ、どれをどう切っても動じない太く頑丈な精神と、ガラスのような繊細な精神の両方を兼ねそろえているように思えた。そして、とてもお茶目である。 最後に質疑応答が行われた。時間の関係上ひとつだけということで、勇気を振り絞ってある記者の方が挙手。 「みなさんに、どんな年の取り方をしていきたいか、お伺いしたいのですが……」 その質問に対する、それぞれの答えもまた、絶妙だった。 豊川「緒形さんや、津川さんみたくは、あまりなりたくない(笑)」 木村「(もともとのんびりとした性格なんで)のんびりと、ぼーっと楽しく年をとりたいですね」 吉行「台詞が覚えられる限りね、まだまだ女優をやっていたいですね」 水川「マイペースに、……まだまだ先の話なんで(笑)、長い人生ゆっくり過ごしていきたいです」 安居「この作品のように、いくつになっても恋愛をしているような人生を送れたら最高だと思います!」 草笛「この作品を通して、自分のことを振り返ってみると、すごく枠にこだわった生き方をしてきたなぁと思うんです。だからこれからは、色々な枠に縛られず、枠を取りはずして素直にストレートに、自分の思うように生きていきたいです。そういえば、先ほど渡辺先生に、とてもいい言葉をいただきました。……えーと……。……。なんでしたっけ?(笑)」 ここで、渡辺さんが「惚れ癖をつけること!」と、ひとこと。それを聞いて草笛さんは続ける。 草笛「あ、そうそう! 惚れ癖をつける、なるべく惚れる癖をつけたいと思います!」 津川「(草笛さんの話を受けて)惚れ癖をつけるには、エネルギーが必要です。もんのすごいエネルギーが要りますからね。(私は)渡辺先生が目標ですが、最期はやはり腹上死! 死ぬ寸前まで女性の裸の上にいられる、これは素晴らしい!(笑)それに近々の目標としては、子供がひとり欲しい。僕はまだ63歳ですから……(笑)浅丘雪路に産ませようなんて過酷なことは言いませんよ(笑)もっとこう能力のある、若い女性ね、カモン!」 緒形「……俺はあんまり老いなんて考えたことが無いから、良い答えが見つかんないね。ま、老いを考えないようにしていることが、老いてることかもしれない(笑)」
高齢化社会という言葉が登場してから、もう何年の月日が流れているだろう。人はみな、誰もが年を取る。老いる。それには誰も逆らうことはできない。だからこそ、このドラマは、大きな影響を与えるに違いない。 歳を重ねていくということ。それはつまり、若い世代の人達にとっても、エ・アロール世代の人たちにとっても、共通の運命なのだから。 |
<ミーハーうさぎの みちゃった・きいちゃった>
今回はじめての「制作発表会見」の現場潜入レポート。とっても緊張しましたね。緒形さんを見たときは、思わず足がすくみましたし、そこに豊川さんがいらっしゃったときは、呼吸を止めました。 テレビの中でしか動いているところを見たことがない方々が、目の前に普通にいらっしゃるということが、なんだかウソみたいで、いっつもぼけぼけしている私ですが、相沢さんにも「大丈夫?」と何度言われたことでしょう(笑)それくらい、なんか場違いというか、どこでもドアで突然現れちゃった気分でした。 しかし、女優さんて本当に美しいですね。人に見られているという意識を、とてもいい形で受け止めると、あんな風になれるのでしょうか……。草笛さんが手鏡で、ご自分の前髪をチェックされているときの真剣な眼差しとか、豊川さんの、びしっとしたスーツなんだけどウエスタンブーツを履く…なーんていうセンス、やっぱ凡人にはありえませぬ。 それから最後に大事な報告をひとつ。相沢さんの脚本の評判は◎。渡辺淳一さんをはじめ、出演者の方々にも好評でした。ほんとだよ、この耳できいちゃったんだから。 |
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