博士の愛した数式
- 2005/12/19

小川洋子さんの小説、昔から大好きです。
何で今まで映画化された作品がなかったんだろう?
って不思議に思うけど、脚本を書く立場になってみると、
小川さんの文章世界を映像で表現するのがいかに難しいかがよく分かる。
美しくも儚く、だけどゾッとするような冷たさと鋭さとを持った
あの独特の空気感。小川さんの紡ぎ出す言葉たちに触れると、
いつも「小説」というものの在り方を思い知らされる気がします。
「博士の愛した数式」を荒木さんがプロデュースすると聞いた時は、
ついに先陣を切る人が現れたかって感じで、
それだけですごいなって素直に思った。
好きな作品が映像化されることに拒否反応を示す読者もいるんだろうけど、
私は、それはそれで観てみたいって思うから。
一足先に試写を観せてもらって、
ああ、こういう物語の捕らえ方もあるんだなーと、とても興味深かった。
そこに広がる空気感は小説とはまったく違ったけれど、
でもきっと違うことが正解なんだと思う。
うまく言えないけど・・・それが映画化する意味というか。
好みは別として、ひとつの解釈が明確に提示されていたから、
「なるほど」と納得しました。
個人的には深津絵里さんと浅丘ルリ子さんのやりとりが切なくて好きだった。
ルートと博士の関係もいいけど、
このふたりをクローズアップした別バージョンもちょっと観てみたいかも。
試写を観た後、たまたまアスミックエースに取材を受けにいらしていた
小川さんと少しだけお話することができました。
想像通り洗練された空気を纏った柔らかな女性で、
だけどやんちゃな少年のような意外な一面もあって、本当に魅力的な方でした。
何より印象に残ったのは、口にする言葉のひとつひとつが綺麗だったこと。
それを聞いているだけで、あの文章を生み出している人なんだなってことが
スッと腑に落ちて、何と言うか、嬉しかったです。
「薬指の標本」もフランスで映画化され、近々公開される予定だとか。
それもどんなふうに仕上がっているのか、観るのが楽しみだなぁ。