no title
- 2005/06/20

リチャード・バックの「ONE」という小説を読み返している。
ずい分前に実家の荷物を整理した際、
もう一度読みたいと思って持ち帰ってきた本の中の一冊。
無数に枝分かれしたパラレルワールドを旅する夫婦の物語で、
時間というのは単なる概念に過ぎず、
過去も未来もすべてはこの瞬間に存在する"現在"であり、
同時に限りなく広がる世界もすべては"ひとつ"である・・・
という設定が興味深く、面白く読んだ記憶がある。
実は内容はほとんど忘れかけていて、
まだ読んでる途中なので感想などは書けないんだけど、
そのページの間に一枚の紙切れが挟まっていた。
私は昔からとにかく何でも思いついたことを書き留めておく人間だった。
だから使わなくなった手帳や財布、バッグ、上着のポケット、
意外な引き出しの奥などなど至るところから
よく言葉を綴った紙切れが出てくる。
たわいない独り言だったり、手紙の下書きだったり、
詩や小説のアイディアにつながる断片だったり。
それを目にするたび、「ああ、この頃はこんなこと考えてたんだな」と、
ふいに過去の自分と出くわしたような不思議な感覚に陥る。
今回は時間をテーマに扱った小説の間から出てきただけに、
なおさらいろいろ考えてしまった。
黄ばんだ紙に乱暴な字で書き殴られていたのは、こんな文章だ。
「あなたがその言葉を飲みこんだのはなぜですか
今 かたくなに息をひそめて
何かを否定するのは怖いことですか
いい人でいるのは価値のあることですか
なおそこにとどまる理由は何ですか
立ち去れたらいいのに 立ち去れたらいいのに
正義をねじ曲げるのは苦痛ではありませんか
それでうまく自分を守ったつもりですか
あなたはふと耐えることが勇気なのだと考える
争わないことが優しさなのだと考える
時々言い訳のうまさに嫌気がさしませんか
これが自分だと胸を張って言えますか
犠牲者でいるのは気持ちがいいですか
可能性に目をつぶるのが賢さなんですか
すり替えた答えが胸につかえていませんか
意地なんてホントに役には立たないのでしょうか
馴れ合いに毒され 哀しくなりませんか」
・・・確かこの本を勧めてくれたのは、
ソニーで宣伝担当をしてくれていたタナBだったと思う。
ということは、これを書いたのは約10年前。
10年という月日が経って、私はどれだけ変わったのか。
または何ひとつ変わっていないのか。
あの日胸に抱いた疑問と今こうして向き合うことに、
何か意味はあるのだろうか。