春爛漫
- 2005/04/09

川沿いの遊歩道を歩いた。
満開の桜が春風に揺れ、ハラハラと花弁が視界を舞う。
水面に日射しが反射して、どこもかしこも輝いている。
向こう岸に停まった船の上では、家族連れが丸くなって座り、
明るい笑い声を上げている。
はしゃいで飛び跳ねる子供たちが落ちないように、
心配そうについてまわるおじいちゃんがおかしくて、足を止めた。
制服姿の女の子たちがそんな私を追い越していく。
短いスカートを翻し、あどけない足で歩いていく後ろ姿を見送って、
桜越しの空を見上げる。
そこには申し分のない晴天が広がっていて、ふいに胸がかすかに疼いた。
止まっていたはずのオルゴールがゆるりと動き、
一瞬だけ懐かしいメロディーが流れる。
とても大切なものをどこかに置き忘れてきたような、切なさ。
どうしてだろう。昔から、春が来ると時々泣きたい気持ちになる。
誰もが希望に心踊らせる新しい季節。
なのに、秋よりずっと人恋しくて、寂しくて・・・
あなたの声が聴きたい。
あなたに目の前の風景がどれだけ穏やかで美しいかを伝えたい。
たまらなく、そう思った。
深呼吸をひとつして、冷たい手をポケットに入れ、歩き出す。
桜並木の終わりで、橋の袂につながれた小さな犬と目が合った。
尖った鼻の先に花弁が一枚くっついている。
私は思わず笑いをもらし、ポケットから手を出すと、
「バイバイ」と犬に手を振った。